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アイスキャンデー《はじめしゃちょー》 ページ37

「あのね、私ね、もうすぐ引っ越すの」
「え?」


いつもと変わらない彼女が、そんな事を口にするものだから、聞こえないふりをした。

「だーかーらー、私、引っ越すの!!!」


本当に聞こえなければ良かったのに。



「はじめくん、お見送り来てくれる?」
「うん、行くよもちろん」
「そうだよね、はじめくんは私の"仲いい友達だ"だもんね」

彼女は、心底嬉しそうに俺に笑いかけた。

「うん、友達だからね」



あれから一週間。
約束の時間は10時。
彼女がこの街から離れる日。

俺は見事に寝坊した。


(なんで、よりによって今日なんだよ…!!!)

寝坊なんて、今日じゃなくてもいいだろ。
彼女に想いを伝えられる最後の日かもしれないのに…!!!


着るものだけきて、俺は家を飛び出した。

外は炎天下。
体を纏う風は生ぬるくて、汗がTシャツに滲む。

(頼む、間に合ってくれ…)

俺にはそう願うことが精一杯で、彼女の待つバス停まで、自分が出せる最大のスピードで向かった。

駅前は人だらけで、それでも人混みをかき分けて進む。
汗が目に染みる。痛い。
全速力で走ったから、心臓も、痛い。

(ああ、間に合え…!!)

目標物を発見し、俺の進む速度は加速する。
待ち合わせのバス停、そこに彼女の姿は、

「………」


なかった。

もう、彼女の乗るバスは出発した後だった。

その瞬間、目眩に襲われて、なんとか体制を整える。
間に合わなかった。涙すら出ない。

もしかしたら、もう彼女には会えないかもしれないのに。もう、この気持ちは伝えられないかもしれないのに。

俺は、本当に馬鹿だ。

これ程までに自分に絶望したのは今日が初めてだ。
彼女はここで待っていたのに。


「…ん?」

ふと、すぐ側の花壇に目を落とす。
そこには食べ終わったアイスキャンデーの棒。
その木の棒には、アタリの文字。
しかし、この上からマジックでバツ印が書かれていて、その脇に書きたされたであろう、



『スキ』



それは、よく見慣れた彼女の字。
あれ?案外まだ終わってないのかもしれない。

不意に、ポケットに手を突っ込んで、小型の電子機器を取り出す。
電源を入れて、メール新規作成の画面を開く。
宛先には彼女の名前。
迷うことなく本文を打つ。








『Re:A


見送り、行けなくてごめん。



それと、____』

手取り足取り《田中》あずささんリク→←嫉妬心《いっくん》えのきの娘さんリク



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クロハ(プロフ) - ありがとうございます…最高です… (2017年8月7日 14時) (レス) id: 6a4238f2b9 (このIDを非表示/違反報告)
ゴリラ - ありがとうございます(´;ω;`) (2017年8月4日 18時) (レス) id: 874f7f8e04 (このIDを非表示/違反報告)
瀬名(プロフ) - クロハさん» わかりましたー! (2017年8月4日 15時) (レス) id: b502a9e7b5 (このIDを非表示/違反報告)
クロハ(プロフ) - またまた失礼します(*´-`)エイジ君で甘めなのお願いできますか? (2017年8月4日 2時) (レス) id: 6a4238f2b9 (このIDを非表示/違反報告)
瀬名(プロフ) - 翡翠さん» 本当ですか!そういっていただけて嬉しいです。これからも応援よろしくお願いします! (2017年8月1日 20時) (レス) id: 60b5c0e445 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:瀬名 郁 | 作成日時:2017年4月7日 21時

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