2〈魔女雨の日常〉 ページ21
「………………」
お皿に乗せたチョコクッキー。人間界で買った材料で作った。
ポットに沸かしたカモミールティー。もう冷めてしまっていた。
きちんと三人分のティーカップをテーブルに並べて、私はひたすら待っていた。
一時間、二時間、三時間。そして、五時間。
「Has not…come here……」
遅い、遅すぎる。流石に探しに出た方が良いかもしれない。どこに行った。魔力探知で辿っていこう。こんなことなら、GPSでも付けておけば良かった。いや、すぐにバレてしまうか。
とにかく、早く確認しに行かないと。もし、もう二度と会えなくなってしまったら………考えるだけで恐ろしい。
部屋に掛けてあった帽子とマントを身に着け、杖も持って、玄関の扉を開けようとした。
その時だった。
ガチャリと、手を掛けようとした扉が、突然外側に開いた。眼前に現れた姿を、一体どれほど待ち望んだことか。
「あめ」
「ブラック様!!!!」
持っていた杖を放し、彼を抱き締めた。もう何処にも行ってしまわないように、強く、強く。
「Black様…Black様ぁ……」
戻ってきてくれた。また会えた。ただそれだけが、張り詰めた緊張と不安を薙ぎ払い、安堵で満たしてくれるのだ。
嗚咽を漏らす喉はからからになってしまいながらも、確かに、その言葉を紡ぎ出した。
「ごめん、な、さい………」
「……オレちゃんこそ、ごめんなさい」
「じぃ…」
クッキーを皆で食べた。カモミールも温め直して飲んだ。熱いお茶が喉元を過ぎれば、自然と体も温まっていく。
「あんな軽率に天使などと言って、申し訳ございませんでした。ブラック様」
「いいえ、大丈夫です。オレちゃんこそ、勝手に出ていってすいません」
「じー…」
二人は少し申し訳無さそうな顔をして謝罪した。まぁ、ブラック様がちゃんと私の元へ帰ってきたので、良しとしよう。
それにしても、ブラック様が天使と呼ばれることを苦手に思っていたとは、予想もしていなかった。しかしながら、私からすれば彼は実質天使なのだ。凍え死にそうだった私を救ってくれた、紛れもない天使。
どうしてブラック様は、悪魔と名乗り始めたのか。結局私はあのビデオを最後まで見れていないから知らないが、もし自分が天使であることを嫌っていて、自ら堕天したとしたら。
クッキーを食む。少しほろ苦い、でも確かに甘いチョコレートの味が、口いっぱいに広がった。
「美味しいですね」
そう言って、私はいつもの笑顔を作った。
***
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作者名:U-ray | 作者ホームページ:http://Kegaretakoinitumonakiaiwo0
作成日時:2024年3月25日 23時