大切な君と ページ18
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
暗い部屋にちいさな声が二つ落ちる。
こんな風に寝る直前、誰かと言葉を交わすのは修学旅行以来ではなかろうか。
昨日と同じ、ベッドの上。
意識すれば聞こえる呼吸音。
扇風機とクーラーでは冷ましきれなかった熱がじりじりと胸で燻って、今にも火が噴き出しそうに感じる。
(･･････眠れない)
静かになると尚更傍で眠る花京院のことを考えてしまい、鼓動が煩くなっていくのだ。
いつだったか、「花京院が好きだ」と自覚したあの日のように。
原作を読んでいる間、Aはただ物語を受け入れるだけで精一杯だった。
承太郎の仲間達の死を目に焼き付けて、ただページを進めるだけだった。
それは当事者ではない彼女にとっても、「はい、そうですか」と受け入れることのできない情報で、感情が追いついてこなかったからだ。
旅が終わった最後のページを迎え、ボロボロと涙が零れ落ちる。
不思議な感覚。
ようやく作中の絵や言葉の意味するところを理解し、「いなくなってしまった」ことを知った。
そこで初めて気付いたのだ。
花京院が好きだった、と。
「大切なものは失って初めて気付く」
ポルナレフがそんな感じのことを言っていた気がする。
全てが終わってから。
彼が居なくなってから気付いてしまった。
漫画自体は何度でも読み返せるが、未来を知っているのといないのとではまた世界が違って見えるもので、ページを捲る度に花京院の姿を探しては胸を痛めていく。
彼らの守りたかったものは守れたはずなのに。
彼らは勝利したはずなのに。
こんなにもつらく、悲しい。
その感覚が今も心の内に潜んでいて、心音の止まった彼と、自分の音の差がどんどん開くことに焦りがつのる。
呼吸の仕方さえも忘れていく。
苦しい。
苦しい。
今ここにいる花京院も、帰れば同じ運命を辿るのだろうと思うと、どうにかしてここに留まってくれないかと願わずにはいられなかった。
「･･････Aさん」
頬に小さな手が添えられる。
思い出したかのように息を少しずつ吐けば、自分が今泣いていることに気がついた。
「大丈夫ですよ。僕がここにいます」
撫でられている、のだろうか。
流れ落ちる水をハンカチに吸わせながら、見えない彼の声を聞いた。
言葉は出ない。
それでも、「ありがとう」を伝えたくて。
Aは震える手を伸ばし、指先で彼の頭を撫でた。
(やがて嗚咽は寝息に変わる)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 134人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アーディ(プロフ) - Fukuminさん» コメントありがとうございます！そう言っていただけると嬉しいです。まだ完結出来ていないので更新頑張りますね！ (11月20日 0時) (
レス) id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
Fukumin(プロフ) - 初コメ失礼します。いや本当に素敵です。好きです(( 主人公ちゃんと花京院との相性は最高に良きです。最高ですありがとうございます!! (11月20日 0時) (レス) @page6 id: 4c4c4d178d (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - くろねこ1227さん» いつもコメントありがとうございます。お陰様で50話埋まりましたので、続きが書け次第続編へ移行させていただきます。小ささ故に守れないもどかしさで花京院は苦しみそうな予感……のんびりお待ちください〜 (2023年1月18日 0時) (レス) @page50 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
くろねこ1227(プロフ) - 夢主ちゃんの健気さと花京院のカッコよさにきゅんとしてしまいます。冬に夏のお話も乙なものですね。更新楽しみにしています。 (2023年1月18日 0時) (レス) @page49 id: 798df1e4bf (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - 更新が遅すぎて冬場に夏の話をしています、作者です。小説内の暑さと現実の寒さをいい感じに合わせて暖を取っていただければと思います(？)もう少しで50話なのでがんばりたいですね。皆様風邪など召されませんよう。 (2023年1月14日 9時) (レス) id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：奇妙な前髪 | 作成日時：2018年7月8日 20時
