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恋の終わり ページ39

「おはようございます、吉良さん。こんな朝早くから、ありがとうございます」

引越し当日の朝、貴重品を入れた鞄と吉良さんへのお礼の菓子折りを持って外に出る。

家の外で待っていた吉良さんは、私に挨拶していつものように微笑んでくれた。

「これくらいはお安い御用だよ。むしろ、君と少しでも長くいられるなら役得だからね」

少し眉を下げてそう言いながら、吉良さんは私の荷物を持ってくれる。

こうして優しくされて嬉しいはずなのに、そんな彼とも今日でさよならだと思うと苦しくなってしまう。

彼と離れて、新しい場所で、私はちゃんと未来への一歩を踏み出せるだろうか。

「今日はいつもより元気がないね」

「いえ……気のせいですよ」

首を振って答えると、吉良さんはまだ少し心配そうに眉を下げた。

彼にエスコートされ、助手席に乗り込む。

「……君は、本当に大丈夫なのかい?」

運転席に座った吉良さんが、いつもの曲を掛けながら目線をこちらに向ける。

「大丈夫です。時間はかかると思いますけど、頑張って慣れていくつもりです」

シートベルトを締めながらそう答えると、吉良さんはホッとしたような顔をした。

「そうか……君の決心がついたならいいんだ」

車が動き出し、駅までの道のりを安全運転で進んでいく。

彼の車に乗るのもこれが最後か、なんて考えながら窓の外を見ていると、違和感に気付いてしまった。

「あの……吉良さん、今って駅に……向かってるんですよね?」

「……」

吉良さんは何も答えない。

代わりに車のスピードが少し上がった。

「吉良さん……ッ!?」

「気を付けた方がいい、と……わたしはちゃんと忠告しておいたはずだよ」

「忠告……?まさか……」

先日の、突然振られた話題を思い出した時には、もう何もかも遅い。

「わたしは君を攫いに来たんだ」

思わず車のドアを開けようとした手は、見えない何かに捕らえられる。

「……!な、なんでッ!?」

「走っている時に開けたら危ないよ」

それなら助けを呼ぼうと携帯を取り出そうとすると、そのまま手首を掴まれたように動かせなくなった。

此方を見ないまま、吉良さんは静かに微笑む。

「だめだめだめだめだめ……!君はわたしと一緒に来るんだ。もう誰の目にも触れさせはしない」

「うッ……ぐッ……!」

暴れようとすれば上に誰かが乗っているかのように押さえつけられ、叫ぼうとした口も塞がれた。

この見えない何か、も吉良さんの仕業なの……?

Break Down→←そうして、物語は終わるはずだった。



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アーディ(プロフ) - 餡さん» コメントありがとうございます!本当はもっと短く纏めるつもりだったので、間に合うか間に合わないかの瀬戸際でヒヤヒヤしながら書いておりました。吉良さんの魅力が伝わっているなら何よりです。最高の褒め言葉ありがとうございます!読破お疲れ様でした! (1月31日 13時) (レス) @page42 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 完結おめでとうございます。まさか吉良さんの誕生日に合わせて執筆されていただなんて…!細密な描写が色んな視点で描かれていて、とても面白かったです。本当に吉良吉影という人物の魅力がたくさん詰まった作品だと思います。素敵な物語をありがとうございました…! (1月31日 8時) (レス) @page42 id: 493b9f8f47 (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - ゆーりさん» くそっ……じれってーな。俺ちょっと2人を進展させてきます……!(コメントありがとうございます!作者的にももどかしいです!!!) (1月26日 22時) (レス) id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーり(プロフ) - あー!!!もどかしい!ドキドキしますね…!!! (1月26日 16時) (レス) @page32 id: bb43593a3a (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - のんさん» ありがとうございます、先はまだちょっと悩んでますが、更新頑張りますね! (1月11日 21時) (レス) @page9 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奇妙な前髪 | 作成日時:2024年1月8日 23時

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