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そうして、物語は終わるはずだった。 ページ38

「はぁ……もう、行くのか……」

「うん。お兄ちゃん……もしかして寂しいの?」

揶揄うように笑うAの頭を、気持ちを誤魔化す為にわしゃわしゃと撫でる。

「ちょっともう……!これから吉良さんに送って貰うんだから……!」

「んー……悪い。いやー、寂しくなるなぁ……たまには連絡してくれよ?」

「うん……落ち着いたらね」

少しは寂しいと思っているのか、Aは項垂れたオレの頭を撫で返してきた。

なんだかんだ妹との二人暮しは楽しくて、それが終わるのが惜しまれる今日である。

みーこはいつものように少し出かけるだけだと思っているのか、その前にご飯を寄越せとばかりに鳴いていた。

「もー……食いしん坊なんだから」

ちょっとだけだよ、と言いながら、玄関に置いてあるご飯皿にカリカリを入れ、Aはみーこの背中を撫でる。

「みーこと離れるの辛いな……返事は出来ないかもだけど、みーこの写真、いっぱい送ってね……」

「あぁ……任せとけよ。しんどくなったらいつでも戻って来いよな」

「ん……ありがとう」

名残惜しそうに笑うと、Aは首に巻いたマフラーに顔を埋めた。

「ちゃんと飯食うんだぞ?風邪ひかないようにな」

「それはこっちのセリフなんだけどな〜……お兄ちゃんまともにご飯食べないから心配」

「兄ちゃんは低燃費だからいいんですー」

「その分出力も低いけどね」

「うっせ、自分の心配してろ」

小さく笑ったAの頭を最後にひと撫でする。

そして彼女は顔を上げた。

「いってきます」

決意と寂しさを滲ませる表情に感化されたのか、胸が詰まって少し苦しくなる。

今生の別れではなくとも、そばに居るのが当たり前だった存在と離れるのは物悲しいものだ。

「あぁ、行ってらっしゃい」

そっと背中を押し、未来への一歩を踏み出すAを見送る。

「……結局、吉良さんとはどうなったんだろうな。遠距離恋愛にはもう懲りてると思うが」

案外、お互いすぐ良い相手を見つけるのかもな、なんて話しかけても、みーこは毛繕いをするだけだ。

本人達に聞くのも良くない気がして、みーこを抱えて自室へ戻った。

そのまま少しずつ、Aがいない生活が日常になっていく。

書籍化の話が決まって、書き下ろしの短編を幾つか書かなくてはならなくなり、妹から連絡が来ないことは社会人一年目だからそういうものだろうぐらいにしか考えていなかった。

それを後悔するのは、数ヶ月後の話……

恋の終わり→←1秒でも長く



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アーディ(プロフ) - 餡さん» コメントありがとうございます!本当はもっと短く纏めるつもりだったので、間に合うか間に合わないかの瀬戸際でヒヤヒヤしながら書いておりました。吉良さんの魅力が伝わっているなら何よりです。最高の褒め言葉ありがとうございます!読破お疲れ様でした! (1月31日 13時) (レス) @page42 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 完結おめでとうございます。まさか吉良さんの誕生日に合わせて執筆されていただなんて…!細密な描写が色んな視点で描かれていて、とても面白かったです。本当に吉良吉影という人物の魅力がたくさん詰まった作品だと思います。素敵な物語をありがとうございました…! (1月31日 8時) (レス) @page42 id: 493b9f8f47 (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - ゆーりさん» くそっ……じれってーな。俺ちょっと2人を進展させてきます……!(コメントありがとうございます!作者的にももどかしいです!!!) (1月26日 22時) (レス) id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーり(プロフ) - あー!!!もどかしい!ドキドキしますね…!!! (1月26日 16時) (レス) @page32 id: bb43593a3a (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - のんさん» ありがとうございます、先はまだちょっと悩んでますが、更新頑張りますね! (1月11日 21時) (レス) @page9 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奇妙な前髪 | 作成日時:2024年1月8日 23時

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