焦りは禁物 ページ23
「そんな……そこまでご迷惑はかけられません……」
「君は今、きっと心細く感じているはずだ。そんな時に一人で過ごすのは寂しいだろう？」
Aさんの瞳の奥を見つめながら語りかける。
彼女はそれでも首を縦に振らなかったので、ダメ押しをする事にした。
「実の所、寂しいのはわたしもなんだ。こんな日に一人で映画を見ていたぐらいだからね」
「吉良さんも……？」
「そう。だから、君と過ごせたら嬉しいんだが……ダメかな？」
わたしの言葉を聞いて、彼女はおずおずと、小さく頷いた。
「あの……ご迷惑をおかけします」
「こちらこそ。じゃあ、行こうか」
手を差し出せば一瞬戸惑ったような表情でわたしを見たが、おずおずとわたしの手を握り返してきた。
Aさんの冷えた手がわたしの体温と混ざり合い、じんわりと温かくなっていくこの感覚がとても心地好い。
「荷物……片方持つよ」
「あ……それ、は……」
あの男が持っていたであろう鞄を一瞥し、彼女は眉を下げる。
「何か問題でも？」
「いえ……大丈夫です。行きましょう……」
カフェを出てタクシーを捕まえ、わたしの家へと向かう。
離れてしまった手が恋しいが、彼女が隣に座っているというだけで満たされている。
基本的にこちらから話しかけなければ彼女は言葉を発することはなく、ずっと窓の外を見つめているだけだ。
無駄口を叩かない、というのはいい。
今までの彼女のように、静かな女性の方がわたし好みだ。
街明かりに照らされた彼女の横顔を見つめる。
(改めて見ても、やはり美しい……)
いつものあどけない表情も悪くはないが、こうして憂いを帯びた表情も魅力的だ。
彼女を眺めているとあっという間にタクシーが止まった。
料金を支払い、彼女をエスコートして玄関まで誘う。
「さ、着いたよ」
「吉良さんの家……大きいですね……」
「そうかい？まぁ、独り暮らしで使うには広すぎるかもしれないな」
わたしが鍵を開けて扉を開くも、彼女は俯いたまま動こうとしない。
「……あの、やっぱり私」
「入らないのかい？」
「ごめんなさい……私、帰ります」
移動時間で冷静になってしまったのかもしれない。
申し訳なさそうに眉を下げている彼女に優しく微笑みかける。
残念だが、仕方がない。
このまま手篭めにしてしまいたい気持ちもあるが、今はまだ、彼女の好感度をあげるのを優先すべきだ。
「……分かった。家まで送るよ。今度はわたしの車でね」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 44人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「オリジナル」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アーディ(プロフ) - 餡さん» コメントありがとうございます！本当はもっと短く纏めるつもりだったので、間に合うか間に合わないかの瀬戸際でヒヤヒヤしながら書いておりました。吉良さんの魅力が伝わっているなら何よりです。最高の褒め言葉ありがとうございます！読破お疲れ様でした！ (1月31日 13時) (
レス) @page42 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
餡(プロフ) - 完結おめでとうございます。まさか吉良さんの誕生日に合わせて執筆されていただなんて…！細密な描写が色んな視点で描かれていて、とても面白かったです。本当に吉良吉影という人物の魅力がたくさん詰まった作品だと思います。素敵な物語をありがとうございました…！ (1月31日 8時) (レス) @page42 id: 493b9f8f47 (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - ゆーりさん» くそっ……じれってーな。俺ちょっと2人を進展させてきます……！(コメントありがとうございます！作者的にももどかしいです！！！) (1月26日 22時) (レス) id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーり(プロフ) - あー！！！もどかしい！ドキドキしますね…！！！ (1月26日 16時) (レス) @page32 id: bb43593a3a (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - のんさん» ありがとうございます、先はまだちょっと悩んでますが、更新頑張りますね！ (1月11日 21時) (レス) @page9 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：奇妙な前髪 | 作成日時：2024年1月8日 23時
