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うどん ページ13

「ここは相変わらず、藤の香が濃い。」









少し眉を潜めて、彼は鼻に手をやった。
鬼は藤の花を嫌うらしい。嫌う、というか、藤の花は本能的に嫌悪感を覚えるのだとか。









弱い鬼だと、理性が本能を上回ることが出来ずに藤の花に近づくことが出来ないらしい。









猗窩座様は、少し鼻に障るだけで我慢も出来るそうだ。









彼はあまり出歩くべきではないと大通りを通ることを避けた。









「……俺の歩みは大きいか?」









『え? い、いえ。』









「そうか。……だがはぐれると厄介だ。手を」









へ、と喉の奥から間抜けな音が出た。
彼が手を差し出している。固まってしまって動けない私に、彼は少し笑って私の手を掴んだ。









「ゆこう。裏道にも飯屋くらいはある。」









『は、はい…………?』









もう訳がわからなくなっている私の手を引いて、彼は裏道を歩いた。









ようやく見つけたのは移動式のうどん屋だった。
気の優しそうな男ががさがさと作業をしていた。









『あ、猗窩座、様。』









「どうした。嫌いか」









『いえその、……猗窩座様も、よ、良かったら、一緒に食べませんか。』









「………だが店主が」









『もうそろそろ移動しようと思っていたそうです。お椀も箸も、少し上乗せしたら返さなくてもいいと。』









「……Aがいいのなら」









顔が華やぐのを自覚する。
そのまま店主に話し、上乗せした代金を払うとうどんを受け取った。









車を引いて、男は去っていった。









背中が見えなくなると、彼はするりと私の隣に腰を下ろした。









椀を受け取る。
月見うどんだ。ほかほかと湯気があがり猗窩座様は目を細めた。









「……久しい」









いただきます、と手を合わせて同時に言うとうどんを啜った。









温かい。熱すぎず、猫舌にも優しい。
猗窩座様をちらりと見ると、随分と噛み締めていた。









そんなに貴重なものでもないのに。









『美味しいですか?』








「……ああ、とても。」









懐かしいな、と静かに呟いた。
あまりに小さい言葉をすり減らしたのは、時間か、それとも心か。









食べ終わると、彼は椀を近くの川で洗って私に持たせた。
それから目を逸らして言う。








「Aの料理も、食べようかと思う。」









だから椀を持ち帰ってくれ と。

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#鬼の味方 - この小説凄くはまりました! 続きがみたいです! 猗窩座カッコ良すぎてやばいです! あと、無惨様は敬語使わないですよ! 「○○しなさい」じゃなくて「○○しろ」の方が良く言ってます! 応援してます!!! (2020年12月30日 5時) (レス) id: 26ef1f84d5 (このIDを非表示/違反報告)
柊 飛々(プロフ) - rioさん» 光栄です。これからもよろしくお願いします。 (2020年11月5日 6時) (レス) id: 04e9c86118 (このIDを非表示/違反報告)
rio - 更新楽しみに待機させていただきます! (2020年11月4日 23時) (レス) id: 0ce86c1008 (このIDを非表示/違反報告)
柊 飛々(プロフ) - マリイさん» あ、奇遇ですね。私も猗窩座様と魘夢ちゃんは推しです。ご拝読賜り光栄です。これからもよろしくお願いします。 (2020年11月1日 21時) (レス) id: 04e9c86118 (このIDを非表示/違反報告)
マリイ - 猗窩座大好きです鬼滅の鬼は皆好きだけど1番好きな鬼は猗窩座 魘夢 無惨様の3人 (2020年11月1日 21時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:柊 飛々 | 作成日時:2020年8月13日 0時

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