巡り合った未来 8 ページ8
「君がいきなり入り込むから頬が切れちゃったじゃん。あーあ…。これ、あの人に怒られるかなぁ」
宇佐美上等兵は、ため息をひとつつくと、立ち上がった。そして、そのまま母を一瞥すると、「そろそろずらからないと…。もう用済みだしいいや」と言って踵を返した。
私は慌てて彼を追いかけようとしたが、後ろから母の苦しそうなうめき声が聞こえてきて足を止める。振り返ると、母が苦しそうに呻いているのが見えた。
「お母様、大丈夫ですかッ！？」
私は慌てて母に駆け寄ると、彼女を抱き上げた。母は血塗れの顔で私を見上げると、「A……」と虚ろな目で私を見る。
「お前の、その目が……憎い」
「……ッ」
それは、何度も何度も言われてきた言葉。母が、私を疎む言葉。
こんな時まで…。
私は、唇を嚙み締めた。
だがそんな言葉とは裏腹に、母は、ゆっくりと私の頬に手を伸ばすと、優しく撫でる。
「な、のに………どうして、お前は……こんなに、愛しいの……」
母はそう言って、私の頬を伝う涙を親指で拭う。そしてそのまま私の手をぎゅっと握ると、「A」と私の名前を呼んだ。
「ごめんね………愛してる」
「お、かあさま……」
私は驚きのあまり、言葉を失った。母は私に向かって微笑むと、そのまま目を閉じた。そして、二度と開くことはなかった。母の体から力が抜けていき、私の手からするりと滑り落ちる。
私はそれを呆然と見つめていたが、やがて堰を切ったように涙が溢れてきた。嗚咽を漏らしながら泣く私を、母はもう抱きしめてはくれない。
「お母様……」
私は母を抱きしめる。だが、その手が握り返されることはなかった。
その後のことはよく覚えていない。
ただ、気がつけば、家が燃えていて、鶴見中尉が目の前にいて、私はそれまでにあった記憶が、都合のいいように改ざんされた。
おそらく、母が死んだという心理的な衝撃が大きすぎて、防衛本能のようなものが働いたのだろう。
家が燃えていたのもきっと…私の居場所を徹底的に無くすために、鶴見中尉か宇佐美上等兵がやったのもかしれない。
彼は私を見下ろすと、にっこりと微笑み……自らを“鶴見篤四郎”なのだと名乗った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 348人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
塩わさび(プロフ) - 名無し36195号さん» 最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました！そう言っていただけるなんて嬉しいです☺️杉元編ができたら、お手隙の際に読んでいただければ幸いです。 (3月3日 19時) (
レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し36195号(プロフ) - 感動しました。本当に素敵な作品をありがとうございます。ぜひこれからも執筆してください。塩わさびさんの作品をもっと読みたいです。杉元のお話待ってます！ (3月3日 15時) (レス) @page44 id: 83cc8cc69d (このIDを非表示/違反報告)
塩わさび(プロフ) - 蜂蜜姫さん» 最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました！！またどこかでお会いしましたら、宜しくお願いいたします！🙇♀ (2月28日 21時) (レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
蜂蜜姫(プロフ) - 完結お疲れ様でした！とても素敵な小説をありがとうございました😊鯉登少尉と幸せになれてよかった！ (2月28日 21時) (レス) @page44 id: b1f5f5fccb (このIDを非表示/違反報告)
塩わさび(プロフ) - 飛炉さん» こちらこそ、最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました☺またどこかでお会いしましたら、宜しくお願いいたします。 (2月26日 19時) (レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：塩わさび | 作成日時：2024年2月17日 17時
