幸せのカタチ 2 ページ30
「鶴見中尉殿……ッ！」
私がもう一度叫ぶと、鶴見中尉はようやく足を止めて振り返った。そして、私の目をじっと見つめたかと思うと、私の頬両を片手でつかむ。私はその強い視線に思わず息を呑んだ。
「A」
鶴見中尉がゆっくりと口を開く。
「逃げたいのであれば逃げればいい。その代わり、このまま戦いを放棄すれば、鯉登たちは死ぬぞ」
「…ッ！」
鶴見中尉の言葉に、私はぐっと唇を噛んだ。鶴見中尉はそんな私を見て、目を細める。
「勝てば官軍。負ければ賊軍。鯉登の言っていたとおりだ。負けるつもりはないが…負ければ全て失ってしまう。愛する者も、仲間も、部下の命も」
「……」
「別に勝たなくてもいい。要は権利書さえ手に入って退けば、勝ったのも同意義だ。お前がその手助けをしてくれれば…お前の存在価値は証明されることになる」
そうだろう？
鶴見中尉はそう言って、私の頬から手を放した。私はその言葉の意味を理解して、何も言えなくなる。
「お前は、鯉登たちを助けたいのだろう？」
「………はい」
鶴見中尉の言葉に私は小さく頷く。
「だったら私についてこい」
そう言って、鶴見中尉は再び私の腕を引くと歩き出した。その足取りに迷いはない。私はそんな鶴見中尉の背中を見つめながら、唇を噛んだ。
屋根を渡り、前の車両へとたどり着いたとき、前方からこちらをみている人影が見えて、私は思わず身構えた。
「尾形、上等兵……」
「誰かと思えば、死に損ないのクソ女じゃねぇか。鶴見中尉殿、そいつをどうするおつもりで？」
尾形上等兵はそう言うと、ゆっくりと私たちの方へと歩いてくる。鶴見中尉はそんな彼を一瞥すると、「百之助」と咎めるように彼の名を呼んだ。
「分かってますよ。鶴見中尉殿」
「このまま権利書を持ち逃げできた後になら、好きにすればいい。だが、今は駄目だ」
「…フン」
尾形上等兵はつまらなさそうに鼻を鳴らす。鶴見中尉はそんな彼に構うことなく、私の手を解いた。
「Aは百之助と共にここで杉元を迎え撃て」
鶴見中尉はそう言うと、私を尾形上等兵の方へと押しやると、そのまま前方へと歩き出す。
私は慌てて体勢を整えようとするが、うまくいかずよろけてしまう。そんな私を尾形上等兵が支えるわけもなく、そのまま尻餅をついた。
「でれすけ」
「…なら支えてください。あと、そのでれすけってやめてもらえませんか」
私はそう言って、尾形上等兵を見上げる。彼はそんな私を馬鹿にしたように鼻で笑った。
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塩わさび(プロフ) - 名無し36195号さん» 最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました！そう言っていただけるなんて嬉しいです☺️杉元編ができたら、お手隙の際に読んでいただければ幸いです。 (3月3日 19時) (
レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し36195号(プロフ) - 感動しました。本当に素敵な作品をありがとうございます。ぜひこれからも執筆してください。塩わさびさんの作品をもっと読みたいです。杉元のお話待ってます！ (3月3日 15時) (レス) @page44 id: 83cc8cc69d (このIDを非表示/違反報告)
塩わさび(プロフ) - 蜂蜜姫さん» 最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました！！またどこかでお会いしましたら、宜しくお願いいたします！🙇♀ (2月28日 21時) (レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
蜂蜜姫(プロフ) - 完結お疲れ様でした！とても素敵な小説をありがとうございました😊鯉登少尉と幸せになれてよかった！ (2月28日 21時) (レス) @page44 id: b1f5f5fccb (このIDを非表示/違反報告)
塩わさび(プロフ) - 飛炉さん» こちらこそ、最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました☺またどこかでお会いしましたら、宜しくお願いいたします。 (2月26日 19時) (レス) id: bea5a70fe9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：塩わさび | 作成日時：2024年2月17日 17時
