26 善逸にはわからないよ ページ28
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怪我がひどい私は個室を与えられていた。
あの後、目を覚ましたと聞いて機能回復訓練をしていた三人に飛びつかれたけれど、
私は何をしたかあまり覚えていない。
曖昧で適当に答えてしまった。
頭の中はさっきの音柱様の言葉でいっぱいだった。
そして湯浴みをして帰ってきたところだ。
・
足元にともっている小さな灯を頼りに、
今日のことを忘れないように紙に筆を滑らす。
その文字は何度か震えるせいで歪んでしまったけれど。
「伊吹」
扉の向こうから声がする。
善逸だと分かっていてもいまは入れたくなかった。
「入るね」
『待って…!』
「薬、1人じゃ塗れないでしょ」
これ以上抵抗するのも無意味なようなので私は口を結んで下を向いた。
「…なんかあった?」
善逸の少し掠れた優しい声に絆されそうになる。
それでも今は話す気になれなかった。
私の頭の中はもうぐちゃぐちゃになっている。整理がしたい。
『薬、やっぱり一人で塗れる。もう出てって』
「嫌だ。痛くてしょうがないって音してる」
『そんな音させてない…』
力の強い善逸に私はやっぱり叶わない。
左腕をつかまれて離さなかった。
『やめて。痛い』
「ごめん」
素直に手を離し、そのまま頰に手を添えたその動作に思わず身体がびくつく。
『やだ…』
「誰かになんか言われたの?」
『言われて、ない』
「…俺に言ってみてよ」
嘘ついても善逸にはバレてしまうことくらい分かっていても、強がってしまう。
善逸は、私と違って強いくせに。
『善逸にはわからないよ』
思った以上に声が震えた。
「俺はお前よりも弱くて…」
『私より強いくせに…っ、いつもそうやって弱いふりする…っ』
涙のぼろぼろこぼれる瞳で善逸を睨みつける。
今だけ、憎い。憎くてしょうがない。
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iro(プロフ) - とても面白いので何度も見返しました!更新待ってます😭 (2021年12月18日 1時) (レス) @page48 id: 7a4adf1725 (このIDを非表示/違反報告)
ゆり - 更新待ってますね。頑張ってください。応募していますね。 (2021年10月17日 11時) (レス) @page48 id: b7d6d649b3 (このIDを非表示/違反報告)
あの子 - だいすきです。こちらの小説の更新とっても楽しみしてます。私の生き甲斐にさせていただいております。ありがとうございます! (2020年11月23日 6時) (レス) id: 75f2a07ea6 (このIDを非表示/違反報告)
栗栖イオリ(プロフ) - Zoom さん» ありがとうございますすす!!!励みになります頑張ります( ; ; ) (2020年11月8日 20時) (レス) id: 9c320e19a4 (このIDを非表示/違反報告)
反逆神・限界突破.モダッチュ(プロフ) - すみません!!遅くなりました!!でもかけました!!お手数おかけしますが、いおりさんのボードにURLを載せちゃいました…… (2020年11月5日 20時) (レス) id: 971db014c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:栗栖イオリ | 作成日時:2020年9月16日 0時