Love scenario

16 you ページ16

『白ワインをグラスで二つ。あとはジェラート。ピスタチオとフランボワーズね』


メニューを見ずにスラスラと、綺麗な声でビョン先生はオーダーした。



帰るってば！と何回も言ったくせに

私は掴まれた腕を振り払わず、足はしっかりと同じ方向へ歩いていた。




どうしたらいいのかわからなかった。




同い年くらいの女の子に囲まれて、楽しそうなハンビンくんを見て。

妙に納得する気持ちと、どういうこと？って問いただしたい気持ちがせめぎ合い

結果、何も言えない自分自身にがっかりで。


だって私も、ハンビンくんに黙ってビョン先生と会ってた。




『二年前とは違うんだね』

『…何が？』




『俺の腕空いてるよ？ほら、しがみついてわんわん泣いていーよ』


カウンターに並んで座ったビョン先生は、左腕をぐいっと私の前へ差し出した。


『丁重にお断りします』


細いけど筋肉のついたその腕をパチンと叩くと
勿体ないなぁ〜って笑いながら、そのまま頬杖をついた。


『…ねぇ。あいつと居て楽しい？』

『…ビョン先生に関係ない』




『だから、ベクちゃんって呼んで』

『…ビョンベクヒョンさんには関係ない』



『…ぷ。相変わらず可愛いねー、Aさんは…』



余裕たっぷりに笑う横顔をじっと睨む。

どうしてビョン先生にこんなにも振り回されるんだろう。



『可愛くないし…』

『可愛いよ。思ってることを彼氏になかなか言えないとことか。
本当は甘えんぼなのに、強がっちゃうとことか』


左手が伸びて、私の頭を優しく包んだ。

ぐっと手のひらに力が入り、私の頭はゆっくりと右へ倒れた。ビョン先生の肩に。



『いい彼女でいなきゃ、って顔してた。本当は泣いて、怒りたかったくせに』



お待たせしました、とカウンター越しに
バーテンダーさんがコースターの上、そっとグラスを置いた。

注がれる白ワインを見ているだけなのに、頬を涙が伝うのはどうしてなんだろう。





『Aちゃん。今くらい先生やめていいんだよ』


ぐ、と肩に頭をさらに抑えながら髪を撫でて
ビョン先生は続けた。


『俺の事も、先生呼び禁止』


グラスとグラスの間に、緑と濃いピンクのジェラートが置かれる。



『こういう時に居合わせる運命なんだろな…』



そう言うと、少しビョン先生は笑った気がした。


目を閉じて涙を流していた私には、見えなかったけど。

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