第拾壱幕 彼女の記憶 ページ12
瑠奈side
目が覚めたら知らない天井が目に入った、なんてことはなく、キャラバンの天井だった。
眠りにつく寸前、風丸と別れたあと。キャラバンの中に駆け込んで毛布にくるまった。寒くて寒くてたまらなかった。ドクドクと血潮が流れる音が耳の奥で響いた。眠った、とは言うものの、ほとんど気絶だったと思う。
「起きたのか」
「っきど……」
「急に起き上がるな。安心しろ、他の奴らは来ない」
「そう、ありがとう。……迷惑かけたね、もう大丈夫だよ」
まだぐちゃぐちゃのまま、痛む頭を押さえて告げた。鬼道がゴーグルの奥の瞳を見開くのが見える。にこりと笑えば、がっしりと両手を肩に置かれる。指がくい込んでちょっと痛い。
「おまえ、まさか」
「やっぱり察しがいいね。そう、宇生賀谷Aこと──篠宮瑠奈だよ。やー記憶飛ぶの癖になっちゃってるみたいでね、まあその分割合簡単に思い出せるからいいんだけど……」
「記憶が、戻ったのか」
「そう、と言いたいところだけど、まだ完全に戻ったわけじゃないんだ。まだ休みたいんだけど、みんなキャラバン使う？」
問えば、今みんなは白恋中との模擬戦が終わったところで、これから校舎裏のゲレンデに行くところなのだそうだ。
「……なんで、ゲレンデ？」
「吹雪は、行けばわかると言っていた」
「そうなんだ……？」
ゲレンデ。寒いのは好きじゃないけど、ちゃんと練習しなきゃな。体動かせば多少は暖かくなるんだろうけど、寒いと手足が動かなくなっちゃって動くことも出来ないからなあ。
「出来るなら、合流して欲しいが」
「無理だね、少なくとも今は。……でさ、なんで、君だったの？」
「は？」
「だって、君は記憶のないボクを怖がっていたじゃないか。あ、逆にそういうこと？ でも変だよね、君一人で、ボクを見てるなんて」
きっと、ここに居るのは鬼道じゃなくて、風丸だったはずだ。顔を合わせるのが気まずい、とは思うが、彼はボクを心配していた。思い上がりかもしれないが、看病してくれただろう。
「……風丸に頼まれただけだ」
「そう。もうあっちと合流するでしょ？ 伝えておいてよ。酷いこと言ってごめん、心配してくれてありがとう、もう大丈夫だから、って」
鬼道は黙ったままだった。じっと見つめられたかと思えば、ふいと視線を逸らしてキャラバンから降りる。
ガラガラ、と音がして、ドアが閉まった。
「はぁ……」
これからどうしよ。でも、今は、頭が痛い。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2018年11月3日 19時
