番外編 長く短い白昼夢�� ページ36
円堂side
嬉々として柚葉をひっぱたいたのは、桜色の髪と瞳をした、おっとりしてそうな少女だった。
「な、え、瑠奈は！？」
「あら、本当に覚えてないんですねぇ」
「声も違う！？ 瑠奈は何処に行ったんだ！？」
「まあまあ落ち着いてください、これはただのケジメですから、すぐに瑠奈に代わりますよ」
コロコロと笑う彼女は、なんだかすごく大人びて見えた。菜花が大人しいところを見ると、知り合いで、その上怖がっている相手なんじゃないか。
「さて、軽く自己紹介でも。私は桜月心愛。この体に宿る交代人格の一人……一つ？ です。瑠奈やこの子達とは仲よしなんですよ」
「仲良し“に見せてる”だけだろ。とっとと帰れよ」
「酷い言われようですね。でも私達、明日の午前四時まで帰れないんですよ。優がポカしたせいで」
優、という名前には、聞き覚えがない。首を傾げる俺と一緒に、菜花とあげはも首を傾げる。どうやら二人もわからないようだ。
「ああ、そうでした。此方には優が居ないんでしたね。私の家族、大事な子です」
にっこりと心愛は笑った。パタパタと手を横に振ったかと思えば、すぐに瑠奈が現れる。
「……仕組みはボクにはわからないからね。自分の体を痛めつけて色々実験に使った本人に聞いてね」
「十人中十人に誤解招くからその言い方やめてくれ」
ごめんごめん、と謝りながら、瑠奈は俺の影に隠れた。そして一言、
「部屋、借りるね。ボクの部屋だと誰か来ちゃいそうだから」
と言って、一足先に帰っていった。瑠奈が行った方向の反対側からは、豪炎寺が向かってきていた。多分、面倒事を回避したかったんだろう。
「この組み合わせは、珍しいな。何を話していたんだ？」
「姉さんが風邪引いたから、お見舞い行こうって話してた」
「そうか。……俺も行っていいか？」
「ああ、別に良いぞ！」
大丈夫、怪しまれてはいないはずだ。お見舞いの時間までに、瑠奈を部屋に帰らせておけば、なんとかなる。
「円堂、大丈夫か？ 顔色が悪いぞ」
「え？ あー──」
「思ってたより姉さんの具合が悪そうだったから、不安になってるんだろ」
そんな事は、と言いかけて、はっとした。あげはが助け舟を出してくれたことに気付かないくらい慌ててたんだな、恥ずかしい。
「そうだったのか。菜花は、何があったんだ？」
「これは拗ねてるだけだから気にしなくていい」
さっきの拳骨が堪えたんだろう、とは、言えなかった。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2020年2月3日 21時
