37 私が(俺が)好きなのは ページ38
家に帰ると、まだ春くんは帰ってきていないようだった。買い物袋をキッチンに置き、少し疲れた体を休めるためにソファに座った。
ここ数日で変わった事といえば、呼び方が「春さん」から「春くん」へと変わった事。そういう事をするときに、無意識に私が「春くん」と呼ぶからか、彼が「春くん」呼びでいいって言うから、そのまま春くん呼びになった。
少し休憩したら気分も変わり、いつ帰ってくるのかわからない彼を待ちながらご飯の支度をする。
「ただいま。」
リビングに入ってきて、そのままキッチンへ流れるように来る彼の姿。
「おかえり、春くん。」
ここ最近はなかったはずだった、後ろからのハグ。今日は仕事でお疲れの様子なのだろう。項垂れるように私の肩に頭を預けている春くんが唐突に爆弾を投げる。
「なぁ、Aって好きな奴とかいんの?」
「何、急に。」
私が好きなのは、春くんだよ。……なんて言えたらいいのにね。淡く甘く溶け込んでいくような恋を期待しないように、夢見ないようにしている。
「会社で好きな男とかいねえの?」
「いない。」
「即答かよ。」
鈍感バカ。こんなに近くにいて、どうして気づいてくれないの。……気づかれないようにしているくせに、気づいてほしいと思う私は我儘だ。
「じゃあ、いっか。」
「何が?」
「……今日も、抱いても。」
「いい、よ。」
その行為に、好意はあるの?
でも、その刹那だけは夢現にいるようだった。
この数回の行為の中で、彼が私の唇にキスをした事は1度もなかった。それはきっと好意がないからなんだと、勝手に思っている。
想いが繋がらないなら、紡げないなら……身体で繋がるしか、紡ぐしかないじゃない。私、こんな大人になるはずじゃなかった。恋焦がれすぎて、燃え尽きてしまいそうなくらい苦しい。
彼も、私と同じ想いならいいのに。同じ想いだったとしても、これ以上の関係にはきっとなれないのだろうけれど。
……彼が、私と同じ世界の人なら、こんなに苦しむ事なかったのに。どれだけ悔やんでも、それだけは覆る事のない事実。
三途side
「A。」
「……ん?」
好きだ。その一言を告げたいのに、告げられない。抱くのは次で最後。だからいつも以上に長い時間、離したくなくてゆっくりと時間をかけていた。
「何でもねえ。」
指先でAの唇に触れると柔らかかった。この唇に、キスを落とす事も出来ない。唇を重ねたらきっと、想いを伝えてしまうから。
……好きだ、A。
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モック - 完結おめでとうございます!物語中の春千夜君がかなりヤバくて(語彙力www)最高でした! 応援してます! (2022年9月24日 10時) (レス) @page50 id: 17f5259717 (このIDを非表示/違反報告)
さきな。(プロフ) - 来夢さん» コメントありがとうございます!本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。大変恐縮です……!これからも面白いと思って頂ける作品が書けたらと思います! (2022年2月19日 0時) (レス) id: 74c94643cf (このIDを非表示/違反報告)
来夢(プロフ) - 完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした🙇♂とても最高でした!私にはこんな神作作れないので羨ましい限りです😭あ、作者様の春千夜くんドタイプでした!これからもずっと応援させて頂きますので、よろしくお願い致します🤲 (2022年2月15日 3時) (レス) id: e2197c2b6d (このIDを非表示/違反報告)
さきな。(プロフ) - 楸さん» コメントありがとうございます。自分にとっても楽しくかけた小説でした♪スランプに陥って書いては消してを繰り返しておりますが、自分の納得した作品が出来て書き続けられたらまた別作品を見ていただけたらと思います。 (2022年2月14日 1時) (レス) id: 74c94643cf (このIDを非表示/違反報告)
楸(プロフ) - 完結おめでとうございます!!マジで最後の方はあ゛あ゛泣って感じで一人で焦ってたんですけど、あらぁ!!って終わり方でもう兎に角大好きです!!語彙力が行方不明になるくらい素敵な作品ありがとうございました!! (2022年2月14日 1時) (レス) id: 94f21122e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さきな。 | 作成日時:2021年12月12日 0時