帰宅したら家が燃えておりまして。【三途春千夜】

26　苦しいのは ページ27

「え、無理！しかも私そんなに大した事お願いしてないし！」

どちらかと言えば、春さんが気遣ってくれれば私からわざわざお願いしなくても良かった内容だ。こんなの理不尽にも程がある。

「反社の人間を容易く信じるもんじゃねえって勉強になったなぁ？Aちゃん？♡」

こういう都合の良い時ばかり『反社の人間』というワードを使って、とてつもなく卑怯だ。私がそのワードを使えば大人しくなるとでも思っているのだろうか。

「それで、等価、対価って何を求めてるの？」

気持ちのメーターが振り切れてしまえば、強気な態度で問いかけてしまう。私の悪い癖かもしれないけれど、この際だからもうどうでもいいという思いが強かった。

「俺のベッドに来いよ、っていうお誘い？」

「え、嫌。」

「即答かよ。お前に手ぇ出す訳ねえだろ。最近寒いから湯たんぽ代わり。」

手を出さないと言われても、それはそれで女としての魅力がないと言われているみたいでちょっと悔しい。湯たんぽの代替品を人でするなんて……失礼すぎる。思ってても言わなければまだ良いのに。

「絶対にやだ。」

「俺の大した事ない願いなんて叶えるの容易いじゃねえか。十分な等価だろ？」

全然等価ではないし、私の可愛いお願いと比べたら規模が違う。偏見になってしまうけれど、春さんは起きる際に機嫌が悪そうだし、寝相も悪そうだからベッドを共有するのはちょっと。

「お前、失礼な事考えてんだろ。」

「全く。」

「じゃあ、問題ねえよな。」

私の身体に彼が触れると宙に浮いた。春さんは機嫌が良さそうな雰囲気を醸し出して、自分のベッドへと私を運んでいく。

ベッドの前に来て、私はベッドへ身を投げ出されてしまうと思い、身構えていた。しかし、そんな私の予想は虚しくもはずれ、そっと優しくベッドに座らせてくれたのだった。

……きっと反社の人って女性を抱き慣れているんだろうな、と。だから女性を丁寧に扱う事も上手ければ、女性を虜にしてしまうような言葉がけも容易いのだろう。

春さんはそんな事なさそうだと思っていたけれど、そんな事はきっとなかった。私に見せていない一面があっただけで、きっと女性の扱いには慣れているし、手練手管に違いない。

彼のベッドに座って、そんなとんでもない事を考えている私もどうかしている。

それに……どうしてそんな事を悶々と考えては胸が締め付けられるように痛んで呼吸が出来なくなってしまいそうなくらい苦しいのだろう。

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