21 珍しいこともあるようで。 ページ22
春さん宅にご機嫌でニコニコしながら靴を脱いでいく。会社の鞄をソファに置いてから、買い物袋をキッチンに置いた。
「やけに機嫌が良さそうだな。」
「定時に帰れたんです!……何年振りかなあ。」
仕事が定時前に終わり、他の仕事を回してもらおうとしたら「帰っていいよ」と言われたのだ。そんな事奇跡に近かったし、今までずっと給付される残業手当以上のサービス残業は当たり前だった。だからこそ定時で帰れるのが本当に嬉しかった。
「……俺が家燃やしたあの日も24時ギリギリ手前って感じだったな。」
「そうなんですよ。」
「お前、押しに弱そうだし……どうせ押し付けられたもん全部自分でやっちまうだろ。」
「何でわかるんですか!?」
私の事、わかってくれているのが意外だった。ただの勘かもしれないけれど。
「見てりゃわかる。……お前みたいな奴って損ばっかすんだよな。」
「まあ確かに。」
損ばかりしている自覚はある。春さんに言われた通り、押しにも弱い。誰にも頼らず全部自分でやってしまうのも正しい。
「もっと他人に甘えればいいじゃねえか。……例えば俺とか♡」
「春さんには頼りません。見返りが怖いですから。」
「見返りなんて求めねえよ。」
「本当ですか?」
そんなやり取りをしているうちに心が和んでいた。恋した時と似たような感覚だった。……でもきっと、恋じゃないとは思う。そんな風に思ってはいるのに以前ほどそれを否定的になれない自分がいた。
一緒にいる時間が増えてきたから、きっと情が芽生えているに違いない。間違いなく、友情だとは思っているけれど。
「……腹減った。」
「あ、今すぐ作りますね。」
キッチンで手を洗い終え、いつも通りまな板と包丁を取り出すと、春さんも何故だか手を洗って私の横に並んでいる。
「ちょっとだけ手伝ってやる。」
どうやら彼の気まぐれが良い方向に進んでいるようで、作るのを手伝ってくれるらしい。別に1人なら1人で作れるけど、折角やってくれるっていうなら手伝ってもらおう。
「ありがとうございます。じゃあ、ピーラーでジャガイモの皮を剝いて貰ってもいいですか?」
ピーラーを手渡して、私は他の作業に取り掛かっていく。野菜を切っていき、いつものように鍋に切った材料を放り込んだ後、彼の様子を見ると、ジャガイモが二回りくらい小さくなっていた。
「……殺す。」
「はい……?」
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モック - 完結おめでとうございます!物語中の春千夜君がかなりヤバくて(語彙力www)最高でした! 応援してます! (2022年9月24日 10時) (レス) @page50 id: 17f5259717 (このIDを非表示/違反報告)
さきな。(プロフ) - 来夢さん» コメントありがとうございます!本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。大変恐縮です……!これからも面白いと思って頂ける作品が書けたらと思います! (2022年2月19日 0時) (レス) id: 74c94643cf (このIDを非表示/違反報告)
来夢(プロフ) - 完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした🙇♂とても最高でした!私にはこんな神作作れないので羨ましい限りです😭あ、作者様の春千夜くんドタイプでした!これからもずっと応援させて頂きますので、よろしくお願い致します🤲 (2022年2月15日 3時) (レス) id: e2197c2b6d (このIDを非表示/違反報告)
さきな。(プロフ) - 楸さん» コメントありがとうございます。自分にとっても楽しくかけた小説でした♪スランプに陥って書いては消してを繰り返しておりますが、自分の納得した作品が出来て書き続けられたらまた別作品を見ていただけたらと思います。 (2022年2月14日 1時) (レス) id: 74c94643cf (このIDを非表示/違反報告)
楸(プロフ) - 完結おめでとうございます!!マジで最後の方はあ゛あ゛泣って感じで一人で焦ってたんですけど、あらぁ!!って終わり方でもう兎に角大好きです!!語彙力が行方不明になるくらい素敵な作品ありがとうございました!! (2022年2月14日 1時) (レス) id: 94f21122e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さきな。 | 作成日時:2021年12月12日 0時