【企画】ハローフェアリーテイル【d!】 (ページ3)

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｢地上は、眩しかった。きょうだい達がたまに聞かせてくれてたけど、実際に見るともっと綺麗で、めまぐるしくて…｣

目を閉じて、こんな海岸よりもっと栄えた街を瞼の裏に思い浮かべている。
人波に呑まれて、歩くうちに足は疲れる。揺蕩う波の中より息苦しかったことだろう。

｢その人には、会えたの？｣
｢んー…見つけたけど、もう遅かった。その子、婚約者がおってな｣

惚れた人間にもう決まった相手が居た、なんてよくある話だ。
水面を隔てた恋はいともあっけなく終わった。

かける言葉がわからなくて｢ふぅん｣と相槌を打っていると、思ったよりも沈んでいない声で続ける。

｢一目惚れだったんよ。あの子はよくこの海に来て、長いドレスの裾を捲って裸足で浅瀬を走ってた。でも陸で見た時は固めたような鉄仮面で、海辺の無邪気さとは別人のようやった｣
｢…え？｣

その情景に、心当たりがあった。

｢婚約者がおるって聞いた時はショックやったけど、それは政略結婚で、彼女の望んだものではなかった。そしてその子はまた海にやって来た。明日結婚式を挙げるこのタイミングで｣
｢明日って、｣
｢こんなん、チャンスやと思うやろ｣

ぺた、と濡れた岩に置いた手に両手を重ねてくる。マリンブルーの透き通る瞳に囚われて、動けない。

｢なぁ、なんで君に声掛けたか、わかる？｣

人魚姫の謳う愛に溺れた。