約十二年前 まるで ページ21
袖で涙を拭い、振り向いた。
「ああ、降谷...だっけ?」
お互い、相手のことは全く分からない状態。いや、彼はどうか知らないがおそらくそうだろう。
同じクラスといっても、まだ高校二年生の一学期は一週間も経っていない。
名前が出てきただけでも褒めて欲しいものだ。
...まあ、新学年の初め特有のややこしい提出物についてほんの少し話したのだけど。
その彼は私を不思議そうに見つめる。
「そんなところに座り込んでいたら風邪引きますよ...?」
まだ少し寒いですし。
そう最後に呟いて、何故だか私と同じ目線の高さまで屈む。
制服ってことは部活ではなかった?いや、運動部ではないのかもしれないし、まず部活で今の時間まで残っているのかもわからない。運動部であっても何か他の用事があった可能性だってあるのだ。
そう、結論を言うと全くわからないの一言に尽きる。
それほど知らないのだ。クラスが同じになって、初めて存在を確認した。
だから、この人が私と目を合わせようとした理由も全くわからない。
「...泣いていたんですか?」
屈んで目を合わせて、丁寧な口調でそういうことを聞かれると...
「...ちびっ子扱いされてる気分」
小学生相手にも丁寧な言葉遣いだった、小学三年生のころの担任を思い出す。
「そんなつもりは無かったんですが、そういわれると確かに...」
「あっ、納得するんだ!?」
うん?何か思ってたのと違うような...
「少し元気になったみたいですね」
そう呟くと、穏やかな笑みを浮かべた。
うわあ、やっぱり顔立ち整ってるよなあ。
でもまさか。この人は私を元気付けようと、わざとからかうようなことを言った...?
いやしかし、こんな初対面に近い相手にそんなことできるだろうか。
「何があったかなんて...聞かせてもらえないですよね」
私の頭にポン、と手をのせて覗き込む。暖かくて大きな手だった。
...父さんの手も大きかったなあ。
つい、父のことをまた思い出してしまったが不思議と悲しくならない。
かわりに、私は何故かこの降谷という男に全て話してしまった。
二年前、父が病死したこと。今日は命日で、父を思い出して泣いてしまったこと。
話をしている間、ずっと乗せられていた手の平。私が涙を流す事はもうなかった。
何故このとき通りかかったか、その理由は勿論知らない。しかし、いてくれたおかげで助かったのは事実なのだ。
そして次の年の命日から、墓に供えられる花が少し増えたのだった。
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かまぼこ板(プロフ) - かなとさん» いつも本当にありがとうございます!これからはまた前のようなペースでやっていきたいと思います、よろしくお願いします! (2016年6月30日 0時) (レス) id: 8b9d5f2ddb (このIDを非表示/違反報告)
かなと(プロフ) - お久しぶりですね。他の方たちもぱったりと更新されなくて寂しかったんですよ。有難う御座いますと此れからも宜しくお願いします。 (2016年6月28日 23時) (レス) id: 5c59d46582 (このIDを非表示/違反報告)
かまぼこ板(プロフ) - かなとさん» 安室さんがこんな感じだったらいいなあという私得な展開でした...!そう言っていただけてよかったです! (2016年6月12日 23時) (レス) id: 8b9d5f2ddb (このIDを非表示/違反報告)
かなと(プロフ) - 安室さんカワ(・∀・)イイ!! (2016年6月12日 0時) (レス) id: 5c59d46582 (このIDを非表示/違反報告)
かまぼこ板(プロフ) - 106さん» コメントありがとうございます!そんなことを言っていただきうれしいです!がんばります! (2016年6月12日 0時) (レス) id: ab8133160c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かまぼこ板 | 作成日時:2016年5月21日 23時