2.ナンパ師来たる ページ3
窓から春の風が吹き抜けた。飛んでいきそうになったプリントを素早く抑える。
そんな風とともに、私の机の前に彼が現れた。
「はいこれ。ありがとう」
お礼とともに彼は、私の古典の教科書と紙パックのカフェオレを差し出した。
毎回くれるのは申し訳ないんだよなあ、とは思うけれど、一度それを口に出したらグイグイ渡されたのでもう言わない。
彼は月一くらいで私に何かを借りに来る。忘れ過ぎな気がして呆れつつ、私も忘れたふりをして月一くらいで借りに行く。何か飲み物をつけて。
そんなことを繰り返すうちに私達は3年生になった。
「こちらこそありがとう」
春や夏はなんだかなあと毎年思っている。コーンポタージュが自販機で売られていないから、それは貰えない。
「俺はお茶してもいいんだけど」
「でた、ナンパ師。ナンパ師にはついて行くなって家で言われてるから」
「えらく具体的だな」
これもお決まりだ。最初と同様、この人は飲み物とお茶に誘うような文句を残して、断られて、私の元を去る。
いつの間にか私はこの男のことが好きになっていた。どこが好きかって聞かれるとパッと言葉にするのは難しいが、あのコーンポタージュの温かさがそっくりそのまま彼にはあると思うのだ。
それなら断る理由がないどころか、はい喜んでって感じではあるのだが。でもなあ、片っ端から誘ってんでしょ?ってたまに聞きたくなる。もう誰でもいいから私を誘うんじゃない?って。
「…でも誘い方ってもんがあるでしょ」
「お、俺の誘い方が間違ってるって言うのか…!?」
「今まで玉砕してきて、その発想がなかったの!?」
じゃあどうすればいいんだよ、とちょっとむくれてしまった。
「うーん…取り敢えず"運命"は止めたほうが…」
グイグイ行き過ぎない、爽やかさは大切、引かれていることに気づく、そして落ち着く…と私がポイントを挙げていると、メモを取り始めた。
「それに気をつけた人なら私はついていかないこともない」
「ついて行くのか!?ついて行くなって言われてるのに!?」
「あ」
口が滑った。
いや、まず家でそんな注意受けてないけどさ。さっきのは嘘だけどさ。
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作者名:かまぼこ板 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年5月15日 23時