05 ページ5
何とか理由をつけて、この場を離れてベッドの中に朝まで潜り込んでいたかった。そんな気分だった。
「《怖くないよ、オレと一緒に行こう》」
角名くんはそんな私の思いを知ってか知らずか、私に言い聞かせるように囁いて、今度は少し強く手を引っ張った。
するとたちまち内側にあった不安という思念が煙のように立ち消えてしまい、私は彼の導くままにその後をついていく他なくなってしまう。
「A、そういや何で起きてたの」
辺りをキョロキョロと見回しながら、ふと角名くんはそんなことを尋ねてきた。薄暗い細道はまだ先が見えない。
「起きてたって言うか……眠れなくて」
「不眠症？」
「不眠症じゃないと思う。ただ寝られないんじゃなくて、私は眠るのが怖いから」
「どうして怖いと思う？」
角名くんは前を向いたまま私にそう問うた。
「……このまま死んだらどうしよう、っていつも考えちゃうの。目を閉じるとさ、目の前が真っ暗になるから。自分がその暗闇の中に入っていって戻れなくなった時が怖い、んだと思う」
私がそう答えると、角名くんは私の言葉を舌の上で反芻するように、
「そっか。Aは死ぬのが怖いんだね」
と繰り返した。
「死ぬのが怖くない人なんているの？」
「死ぬ瞬間がみんな怖いだけじゃない？痛いのが嫌とか」
でも狐火ばっかり送り返してるとだんだんそういうの分からなくなるけど、と彼は付け加える。草葉の裏を覗き込む。
「ずっとそんなことしてるの？」
「そうだよ。黄泉比良坂にこちら側に迷い込んだ魂を送り返すのが仕事だから」
「よく分からないけど、大変そう」
「最近はそうでもないよ。お彼岸のピークが過ぎれば大したことないし」
淡々と語る彼の言葉に、嘘はないように思われた。
「角名くんは死んだ人の魂見てて怖くならない？」
「あんまり怖くないな。死ぬことは救われることだから」
「死の先には何もないよ」
「そう考える人もいるけどね。オレはこうして誰かの魂を送ることで善人として救われたいのかも」
「他人ごとみたい」
「Aよりはドライじゃないと思うけど」
言葉を交わしているうちに、私は角名くんがずっと私のことを下の名前で呼んでいることに気がついた。
角名くん、この間までは苗字で呼んでたのに。何故急に下の名前で呼ぶのだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - おこわさん» 雰囲気を楽しんでいただけたようで何よりです！ありがとうございました〜！ (2020年6月1日 12時) (
レス) id: 4fd7cad6f6 (このIDを非表示/違反報告)
［ハコナカ］(IN THE BOX)(プロフ) - ひーとさん» 虜囚とこの話は繋がってるので要素入ってます！楽しんでいただけて幸いです(*≧∀≦*) (2020年6月1日 12時) (レス) id: 4fd7cad6f6 (このIDを非表示/違反報告)
おこわ(プロフ) - 仄暗い怖さと引き込まれるような文章、とても素敵でした！非常に面白かったです！ (2020年5月31日 21時) (レス) id: f852f9d302 (このIDを非表示/違反報告)
ひーと - 面白かったです虜囚の内容が若干入ってます？今回の作品も最高でした！ (2020年5月31日 20時) (レス) id: c8f6957e50 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：［ハコナカ］(IN THE BOX)
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年5月31日 19時
