愛は憎悪の始め。【及川徹】 (ページ17)

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「＿＿＿＿＿＿及川さ」

「岩ちゃんと何話してたの？」

「え？」

声をかけようとしたら先に声をかけられてしまった。

しかし、その声の先にいた及川さんは何処か私を睨み付けているような気がした。

…………ううん、気の所為だ。そんなわけが無い。

落ち着いて私は及川さんにバレー部のマネージャーの件について話した。

「…………そっか、ごめん、急に。」

口を抑えて申し訳なさそうに謝る及川さん。

やはり私の気の所為だったみたい。

「あ、いいえ。大丈夫ですよ……あ、そういえば、及川さんはどう思いますか？マネージャーの件」

少し考え込んだ後、口を開く。

「今は療養に専念したい方がいいと思うかな。
…それに、Aちゃんも知らない野郎達の中に放り込まれるなんて、嫌でしょ。俺も嫌だし。」

「…確かに。じゃあ、ある程度記憶が戻るまでは部活はやめておきます。………あ！そうだ、及川さん」

ふと思い出した事が、私が及川さんにお願いしないと出来ない事だったから、お願いしてみよう。

…1回、家に帰ること。

＂今＂の私はまだ1回もお父さんとお母さんに会っていないから。

もしかしたら、何か記憶に繋がる事があるかもしれないし。

彼はどうしたのと言わんばかりの笑顔で此方を見ている。

きっと彼なら承諾してくれる。

「あの、1回家に帰りたいんです」

「………？今から、帰るけど？」

…なんと、私はとても恥ずかしい勘違いをしていた。

そうだ、彼にとっては当たり前の事だった。

「え、あ……そ、そうですよね、いつまでも及川さんの家に居る訳にもいけませんしね…！」

「Aちゃん？」

「は、はいっ？」

真っ直ぐな視線を向けられ、気の抜けた返事をしてしまう。

彼は、はは、と笑うとさっきと変わって冷めた目を私に向けた。

「Aちゃんのお家は俺の家でしょ？」

何を言ってるんだ、と言わんばかりの、笑みを浮かべて。