39 ページ39
「……っは！？」
目覚めた場所は、自宅だ。
「夢…じゃないか、」
一気に心が痛くなってくる。涙が溢れて止まらない。彼らのことは覚えている。でも、もう会えないというのが悲しすぎて、動く気になれない。
「うぁあああん！！」
子供のように大声で泣いて、ただ別れを惜しんだ。部屋にはただ1人。Aの泣き声と秒針が進む音だけが響いていた。
Aが向こうに居た期間、こちらでは3年の月日が流れていた。会社は当然クビ。それどころか、母親は死んでいた。母親の訃報を入院先の病院で知った時、酷く罵られた。
「貴方の母親は、行方不明になった貴方を死ぬその時まで心配してたのに、この親不孝者！！」と。
異世界から帰ってきてもう4日。生きる希望を失ったAはぼんやりと川辺に座っていた。
何のために帰ってきたのだろう。自分は今、何をしているんだろう。これからどうすれば良いのだろう。不安でしかない。もうこのまま川に身を投げて死んでしまおうか。そんなことまで考えた。
「お嬢さん、若いのになぜこんなところに？」
声をかけたのこの辺に居るホームレスの男だった。川を見つめる若い女を見て、思うところがあったのだろう。
「分からないんです。どうやって生きたらいいのか」
「死ぬことはないさ。ほれ、食えば元気出る」
拾ってきたであろう食べかけの弁当。人の温かさはどの世界でも変わらない。
「……っ、戻りたい」
「食べんしゃい」
パサパサの冷えた白米を食べながら、異世界での日々を思い出す。家族の為に帰ってきたのに、家族は死んでいた。手に職もない。友人達は3年間連絡も寄越さなかったAを見放した。何度家に行っても居ない、連絡をしても繋がらない。職場にも居ない。死んだと思ってたのに、いきなり現れるとか何を考えているんだ、と。
「……トントンさん達に、会いたいよ」
まだ4日しか経ってない。でも恋しくて仕方がないのだ。
「あの、ありがとうございました。私、頑張って仕事探してみます」
「頑張って」
川辺を後にし、自宅に戻る。この自宅ともあと一週間でおさらばだ。
虚ろな目で部屋を見ていると自宅の机の上に、何故か見覚えのある本が置いてあった。
『曼荼羅の書は気まぐれなんです』
エーミールの言葉が脳内で反芻する。
「……馬鹿だな、私。呆れるほど馬鹿だ」
彼女は、笑いながら涙を流して本のページを開いた。
眩い光が私を包む。
“おかえり、A”
＿＿＿＿ただいま、です。
fin
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1459人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かす(プロフ) - かこつです。楽しませていただきました。ありがとうございます (7月17日 19時) (
レス) @page48 id: b1482de086 (このIDを非表示/違反報告)
らあゆ(プロフ) - ありがとう……ありがとう……ほんまにありがとう…一気読み最高でした( ；∀；)夢主可愛すぎるだろ…ありがとう(*´；ェ；｀*) (2023年3月21日 8時) (レス) @page47 id: 61afbf51de (このIDを非表示/違反報告)
♪si?do☆(プロフ) - とっても面白かったです！また面白い作品書いてください！ (2023年1月6日 16時) (レス) id: 89c26ef77d (このIDを非表示/違反報告)
ヒル(プロフ) - 新しい番外編...？好き。夢主の平和ボケっぽいのがずっと抜けない感じ好き。もう、語彙力喪失。ありがとうございますほんとに番外編感謝します...！ (2022年12月21日 23時) (レス) @page43 id: e3196d1b3b (このIDを非表示/違反報告)
小雪 - 完結おめでとうございます！番外編が好きすぎる…。いつも更新されるたびにわくわくして読ませていただいておりました。本当に素敵な作品をありがとうございました！ (2022年12月16日 0時) (レス) @page41 id: 472937dc0d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひよこの子
| 作者ホームページ：
作成日時：2022年11月23日 16時
