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「なんか……部屋片付いたみたいやし、一旦戻るわ」
「もうそのまま帰ってこなくていいですよ」
ニッコリと笑顔で言うと、トントンが酷く傷ついた顔を浮かべる。犬のしっぽが垂れ下がるような幻覚まで見える程に。俯いたまま顔を上げずに、色々呟いている。
「Aは俺の事嫌いなんか?俺は愛しとるのに。なんで否定的な事ばっか言うん……」
「ああ、ごめんなさい。いつでも帰ってきて下さいね」
棒読みだが、その言葉1つでトントンと表情はガラリと変わった。向日葵のような眩しい笑顔。思わず目を覆いたくなる。大きく手を広げて、Aを抱き締める。
体格差から、スッポリとトントンの腕の中に収まり、暖かい手がAの背中を摩る。
「俺にも仕事があんねん。寂しいと思うけど、大人しく待っててな」
Aのま前髪を手で上げて、チュッと額にキスを落としたトントンは、服を整えて家を出て行った。ポツンと1人部屋に残されたAは、飲み終わったココアのコップをシンクに置いて、ソファに寝転がった。
「……あんなことされたら、悪人に見えなくなるじゃん」
額に落とされたキスの感覚が忘れられず、膝に顔を埋める。顔が熱い。
気分転換にテレビをつけると、興味の無いニュースが流れる。毎度毎度、同じようなニュースで飽き飽きする。
テレビのコメンテーターの声をBGMに、スマホでネットニュースを見る。スライドしていくと、いくつか気になるニュースがあった。その中の1つに、背筋が凍るようなニュースがあった。
我々組と対立していた鷹組、崩壊。
そんな見出しで書かれたニュース。思わずタップすると、鷹組の組長がどこかへ行ってしまい、統率が取れなくなって崩壊したとの旨だった。鷹組組長の顔写真を見て、Aは小さな悲鳴を零した。
昨日、トントンが殺していた男だ。我々組と対立していた、という文面を見れば、理由は分かる。サーッと血の気が引いていく。震える足に鞭打って、玄関の鍵を閉める。これで一安心だと息をつくと共に、床に倒れ込む。
さっき寝たが、体はまだ寝足りないらしい。最近は残業ばかりでろくに睡眠を取れていない。
「明日は休みだしいいか……」
ようやくゆっくりできる喜びと安心感から、すぐにAは意識を手放した。廊下に寝そべって居る姿は、誰がどう見ても死んでいるようにしか見えない。微かな寝息で生きていることが分かる。
もうすっかり外は暗くなり、人々が就寝する時間にAは起床した。
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ゆず塩(プロフ) - 何回も読み直して部屋が水没するくらい泣きました…最高です!! (3月29日 1時) (レス) @page50 id: 8ae73bc925 (このIDを非表示/違反報告)
けんまおし1016(プロフ) - もうこの作品も最高でした!!!!最後のrbrさんとの話がまたよかったです!!大好きです!!←突然の告白 (2022年12月11日 14時) (レス) @page50 id: 92260459e9 (このIDを非表示/違反報告)
ねう。(プロフ) - ボロッボロに泣きました。とても素敵なお話でした。今までたくさんのお話を読んできましたが、こんなに感動して心を動かされてドキドキしたものはこれが初めてでした。何度も読み返させてもらいます!素敵なお話をありがとうございました!! (2022年9月5日 18時) (レス) @page50 id: dee5bda7f0 (このIDを非表示/違反報告)
ぽぺに(プロフ) - 。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。←感動しました。ひよこさん大好き。 (2022年6月17日 23時) (レス) @page50 id: bcadc0cb73 (このIDを非表示/違反報告)
防弾チョッキ(初心者) - なんちゅう殺傷能力の高いお話を書くんや・・・最高ですありがとうございました。自分的に最後のrbrさんとの会話がウヘヘヘヘ←キッモ (2022年5月2日 23時) (レス) @page50 id: 16da95312d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひよこの子 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年10月10日 17時