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「……跡継ぎが欲しいだけなら、もっと別の女性にすればいいじゃないですか」
少しムスッとしたように、不貞腐れたように、窓の外を向いてAが言うと、トントンがフッと笑みを零した。その顔には、困ったような、でもAが愛おしくて仕方ないという気持ちが表れていた。
「跡継ぎの為なら、お前選ばへん。たまたま俺の部屋来てもうた可哀想な一般人が、たまたま俺のタイプで、たまたま一目惚れしただけやで」
「そう、ですか」
トントンはAに後頭部向けているため、彼女が今どんな顔をしているか分からないが、嬉しそうな声にトントンも嬉しそうな表情を浮かべる。その後も、ポツリポツリと会話をしながら、家に戻った。マンションの駐車場に車を停め、部屋の扉を開ける。
「あの……トントンさん?家はあっちでは?」
「何言うてんねん。お前の為にこっちにも来るに決まっとるやろ」
何故、自分がおかしいというような感じで言われているのか分からず、Aは真顔になる。お構い無しに家に入ったトントンは、すぐに冷蔵庫を開けた。それを横目にAは部屋に入って着替えをした。
部屋着を着て、リビングへ戻ると、手の込んだ夜ご飯が置いてあった。今の一瞬で作ったとは思えない。不思議そうな顔をしているAに気付いたのか、トントンは自慢気にその逞しい胸筋を張って言った。
「A、今日帰ってくるの遅いと思って、会社行っとる時に飯作ってん。風呂も沸いとる。な、ちゃんとお前の夫できとるやろ?」
「そうですね。……ありがとうございます。トントンさん」
キュッとトントンの手を握ると、トントンはそのままAの手を握って、自分の体の方へ引き寄せた。倒れ込んできた体を抱き締めて、首筋に唇を落とす。
「えっ、」
かーっと一瞬で赤くなる顔。くっきりとできた赤い痕に、ペロッとトントンが舌なめずりをする。スルッとAの頬を撫でて、小さく息を吐く。
「可愛ええなぁ。好きやで、A。お前がその気やなくとも、俺は絶対にお前と結婚する。待ってろよ」
「……いただきます」
トントンの言葉には何も答えることは出来ずに、逃げるためにも椅子に座った。レンジで温めたご飯は、やはり美味しかった。
『好きやで』トントンのその言葉がずっと頭を回っている。
(きっと、あんな出会いじゃなければ、とっくに私はトントンさんに惚れてたんだろうな)
彼が旦那だったら、一生困らないだろう。
だからこそ、彼は自分ではダメなのだ。
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ゆず塩(プロフ) - 何回も読み直して部屋が水没するくらい泣きました…最高です!! (3月29日 1時) (レス) @page50 id: 8ae73bc925 (このIDを非表示/違反報告)
けんまおし1016(プロフ) - もうこの作品も最高でした!!!!最後のrbrさんとの話がまたよかったです!!大好きです!!←突然の告白 (2022年12月11日 14時) (レス) @page50 id: 92260459e9 (このIDを非表示/違反報告)
ねう。(プロフ) - ボロッボロに泣きました。とても素敵なお話でした。今までたくさんのお話を読んできましたが、こんなに感動して心を動かされてドキドキしたものはこれが初めてでした。何度も読み返させてもらいます!素敵なお話をありがとうございました!! (2022年9月5日 18時) (レス) @page50 id: dee5bda7f0 (このIDを非表示/違反報告)
ぽぺに(プロフ) - 。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。←感動しました。ひよこさん大好き。 (2022年6月17日 23時) (レス) @page50 id: bcadc0cb73 (このIDを非表示/違反報告)
防弾チョッキ(初心者) - なんちゅう殺傷能力の高いお話を書くんや・・・最高ですありがとうございました。自分的に最後のrbrさんとの会話がウヘヘヘヘ←キッモ (2022年5月2日 23時) (レス) @page50 id: 16da95312d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひよこの子 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年10月10日 17時