終章:追いかけてはいけない。追いかけないのが恋愛の武士道である。 ページ50
偶然だった。たまたま、その日はトントンが出張で。たまたま好きな女と一緒に酒を飲み、たまたま彼女が酔い潰れた。そこまではなんの他意も汚い欲も無かった。
「シッマぁ、ロボロぉ？」
ヘラヘラと笑いながら、その好いた女という爆弾は心を掻き乱して行く。酔い潰れた女を介抱しながら、ロボロとコネシマはAの両肩を分け合い、部屋まで連れて行った。
力のあるロボロがAを抱えてベッドに寝かせる。
「んぅ」
鼻を抜けるような、艶のある声。押し留めていた劣情が溢れ出してくる。互いに恋敵であり、失恋した仲間でもある。
「じゃあ、A。俺ら部屋戻るから。ゆっくり休めよ」
優しく毛布をかけてやったコネシマは、クルッとAに背を向ける。ロボロも同じようにした時、2人の服をAはキュッと掴んだ。
「いかないでよ。ひとりはさみしいの」
あの事件以降、Aは独りを嫌うようになった。元々、体質上1人になることの方が多かった。でも、ロボロやコネシマ、そしてトントンという存在に出会った今、Aはそうそう寂しい思いをしなくなった。
今日、トントンが居ないことで、普段あった温もりが消えたことで。彼女は心のどこかで、誰かと一緒に居たいと思ったのだろう。
「A。俺らとお前は、男と女や。間違いがあったらどうすんねん」
「せやぞ。お前には…っ、トントンが居るやんか」
2人は、少し期待した。よくある恋愛小説のように。
『貴方にならいいわ』とか『一晩だけだからね』
そう言って、チャンスをくれないかと。でも、現実は厳しい。
「トントン…ん、悲しむもんね。我慢する」
「ああ」
「ええ子や」
2人の男は、へにゃっと笑う愛してやまない女の頭を撫でて、部屋を去ろうとする。
「ねぇ」
「ん？」
「絶対ないと思うけど、もしトントンとまたああなったら、私の事貰ってくれない？」
先程までの舌っ足らずはどこへやら。日頃よりも饒舌に語っているようにさえ錯覚する。嬉しいが、心痛む誘いであった。
「…旦那が居るんやから、そういうことは言ったらアカン」
「A。アーシャと同じは嫌やろ。アーシャがトントンにそういうの言っとったら嫌やろ」
「そっかぁ」
本当は頷きたかった。でもしなかった。トントンを思って。そしてこの思いを断ち切る為に。
追いかけてはいけない。追いかけないのが恋愛の武士道である。
そんな言葉、誰が言ったか覚えていないが、まさしくそうだと2人は思った。
fin
終わり
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キリス(某教祖様)(プロフ) - え…好き♡ (1月15日 21時) (
レス) @page50 id: 62b7efaae2 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 笑いあり涙あり感動あり。正にこの作品のためにある言葉だなと感じました。優しい時間をありがとうございます、この作品の彼等に出会えて良かったです。あとがきを読んでより一層、素のアーシャが好きになりました。また会えるといいなぁ (11月7日 4時) (レス) @page50 id: dba6e6f19e (このIDを非表示/違反報告)
セエレ(プロフ) - なんだこの神作！？と思ったらまさかの推し作者様という奇跡。話の持ってき方が上手すぎる…文章力が凄すぎて作品引きこまれすぎて今泣きそうです (9月18日 23時) (レス) id: b81e176fb0 (このIDを非表示/違反報告)
しんし - お見事でした！！！アーシャにはぜひ子供になって欲しいです､､今まで見た中で1番読み応えがありました！ (5月13日 2時) (レス) @page50 id: ced92b552c (このIDを非表示/違反報告)
けんまおし1016(プロフ) - この作品もまじで!最高でした!最初はtnさん嫌い!ってなっててつぎにアーシャなんなん?最後はおめでとー!!!!ってなりました!また一気読みしちゃいましたよーでも最後アーシャ好きになっちゃいました!憎めないですよ! (2022年12月8日 18時) (レス) @page50 id: 92260459e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひよこの子
| 作者ホームページ：
作成日時：2022年3月28日 18時
