【d!】無感情ナース2 (ページ44)

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その日の夜、食事を終えたAは、フリースペースで冷たいコーヒーを飲みながら、読書をしていた。部屋でも良かった。だが、何故だか今日は、ここに居たかったのだ。

「寝れなくなるで」

優しい声がした。特徴的だからすぐ分かる。本から顔を上げると、やはりその人物が居た。

「こんばんは、コネシマさん」

軽く手を挙げたコネシマは、Aの正面に座り、廊下で買ったであろうコーヒーを、机の上に置いた。

幹部は、グルッペンからAがA国で襲われたことを知っている。刺激しないように、と釘を刺されて。

コネシマは、決して同情や慰めに来た訳じゃない。ただ、久しぶりにAと会ったので、少し話がしたかったのだ。

「グルッペンって凄い奴やろ」

「……ええ、本当に」

数十年前までは、我々国はここまで強い国じゃなかったと聞く。彼が、我々国を治めるようになってから、今までの方針をガラリと変えて、今日までのこの大国を作り上げたという。

「皆さんが、総統閣下に付き従うのも、彼の人柄あってのことでしょうし」

「アイツになら、命捧げても惜しくない。……分かるやろ？」

「ええ。彼なら。賭けじゃないですもん」

楽しそうに話すコネシマは、本当にグルッペンを尊敬しているのだとAには伝わった。

「Aって、親居る？」

「居ましたね。今は、骨になって埋まっています」

「そうか。……俺んとこは、多分生きとるんやけど、帰る気起きへんねん」

「分かりますよ」

Aが言うと、パァァァとコネシマの目が輝いた。ようやく誰かに分かって貰えたという、思春期の少年のような瞳をして。

「Aは、嫌いなん？親」

「いえ、好きでも嫌いでもないですね。……ただいつも、愚かだな、と思っていました」

「まあ、家族なんてそんなもんや。ここにいれば、忘れるやろ？家族のこと」

「そうですね。ただ……たった1人の家族だけは、忘れた事無いです」

「お兄さんか」

「ええ、まだ生きてる気がしてならないんですよ」

馬鹿ですよね、と笑うA。

「そういう虚像に縋るのも、1種の手やと思うで」

大丈夫、生きてるというような薄っぺらい励ましではなく、ハッキリと死んだことを前提に話すコネシマに、Aはクスッと笑いを零した。

「どうしたん？」

「いや……面白いですね、コネシマさん」

「そうか」

優しく細められた瞳は、元々端麗な顔立ちに色気を加えさせた。

「寝る前に目に毒です。……じゃ、おやすみなさい」