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「ほんとにそれだけでいいの？」
「じゅ、十分だよ！」
「そう？？
…普段来ても男とばっかだしわかんない(笑)」
…やってしまった。
お店を回っていたら、
全部光成くんがお会計をしてくれて
手元にあるわたあめも、
たこ焼きも、お財布を出していない。
それだけじゃない。他の遊ぶ方のお店も…全部。
射的に関しては景品までもらってしまった。
「ね、ねぇ…やっぱり景品はさすがに」
「Aちゃんが欲しいものだから取ったんだし、
気にしないで」
「でも…」
「こういうの、よくない？」
「こういうの…？」
「彼女のために取る、みたいなの」
「っ…」
危うく、彼に取ってもらったぬいぐるみを
地面に落としそうになった。
確かに、婚約者だし、結婚するまでは付き合うって
解釈で間違いではないはず。
だけど、いざ”彼女”と口にされると
それはそれで恥ずかしい、というか。
少しすると、座っていたところから彼が立ち上がって
花火見えるとこまで行こう、と先を指さす。
「…え、」
さっきの恥ずかしさで
うつむきながら少し足を進めると
彼の声が遠くなる。
気付いた時には、すでに光成くんは
人混みに溶け込んでしまっていた。
辺りを見渡しても、彼の姿は見つからない。
元居た場所に戻ろうにも
人をかき分けないといけなくて
慣れない私には少し難しかった。
「ど、うしよ」
携帯も人が多くて繋がらない。
花火が見える場所とは聞いていたけど
具体的にどこかは分からない。
とりあえず、周りを見渡しやすいところに
行かないと。
その一心で足を進めた。
「いない…このままはぐれたままだったら」
しばらく歩いても状況は変わらなかった。
少し広いところに出て、ひとまず足を止める。
周りは当然知らない人ばかりで
ぽつんと一人その場にいる寂しさに
思わず唇を噛みしめた。
せっかく、光成くんが誘ってくれたのに。
自分の危機管理の無さに呆れた。
「いた…っ！！」
「へ…っ」
ぎゅっと、ふいに抱きしめられた身体。
耳元で聞こえた呼吸は、弾んでいる。
光成くん…？と彼の名前呼ぶと
さらに私を抱きしめる力は強まった。
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作者名：むう
| 作成日時：2021年2月23日 21時
