. ページ8
.
.
「この前ぶりだね。
今日はOKしてくれてありがとう」
「う、ううん！私もここ来てみたくて…」
「そっか、よかった」
近づくと、笑顔も言葉も視線も
私にだけ向けられているんだと実感するから
余計に胸が苦しくなる。
今日、まともでいられるかな。
「光成、くん…？」
「え、あ、いや…」
直視していられなくて
目を伏せていると感じるまっすぐな視線。
ちらりと上を見ると、その正体が
彼のものだと分かる。
私の問いかけにふいっとそれを逸らすと
口元に手を当てる光成くん。
「浴衣、見れると思ってなかった…から」
「っ、張り切りすぎた…かな」
「違っ…その、綺麗だから」
「へ…」
そのことに熱が上がる。
似合ってる、と少しぎこちなく呟かれて
気持ちの逃げ場がなくて浴衣を軽く握った。
「こ、うせいくんも…浴衣、似合ってるよ？」
「あ、いやこれは湧が…家の奴が着ろっていうから」
「さっき、実はね、
かっこよくて一瞬動き止めちゃって」
「っ！？」
「だから、浴衣着てくれて…嬉しい、な」
「う、ん…俺も今、浴衣着てよかったって思ってる」
きゅっと握られた手。
びっくりして顔を上げても
光成くんは前を見ているから気付いてくれない。
「行こっか…はぐれちゃだめだし、こうしとくね」
「っ、うん」
まだ、屋台の一つも回ってないのに
こんなに幸せでいいんだろうか。
つないだ手を見つめながら、そう思う。
慣れない人混みは少し不安だけど
光成くんが一緒って思うと気持ちは軽くなった。
「髪、アレンジしてあるんだね」
「あ、うん。
自分じゃ無理だから、頼んだんだけど…」
「編み込み」
「え？」
「…お揃い」
指をさされた先を見てみると
彼も横の髪が少しだけ編み込まれていた。
ほんとだ、と言う私に無邪気に微笑む彼。
何気ないことなのに、嬉しかった。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 803人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：むう
| 作成日時：2021年2月23日 21時
