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適当な宿を取った。
小さな宿を選んだのは、アルメダ島の扱いで少しは学んだと言う事なのか。
トルネオ島の気風の御蔭もあるのだろうがその選択は成功だったようで、A達は特に大騒ぎになるでもなく宿を取れた。
但し、『英雄扱い』と言うのは大小変われど存在するらしく、Aが名を記入し、眼を通すが早いか、受付嬢は奥に引っ込んで、支配人の出てくる始末だった。
膝元に擦り寄る様な勢いの支配人は、懇ろに感謝を述べた。
寧ろ泊めて貰う側なので、とAは云ったが、そう効果は無かった。
然し、何分小さな宿で、オマケに飛び入りと来た。
「【何分、部屋が一つしか空いておりませんで。一等の、二人部屋になるんですが】」
と、支配人は眉を下げてへどもどしながら言った。
一等と言うのはさておき、二人部屋、と言うのは、好都合なのか何なのか。
「【お泊りでしたら、当然お安く致しますけれども、……】」
恐ろしく気を使われている。
普段使う側のAは、「【いえ、一客と言うのは変わりありません、どうぞお気遣いなく】」と言葉を返戻するが、支配人は聴かない。
Aは苦笑いしながら仕方なしに、現地の言葉で行われた交渉の為に解らない為、斜め後ろに突っ立って居るひとらんらんを振り返って、眉を下げて、
「部屋、一つしかないみたいなんだけど、如何する？」
と、訊いた。
ひとらんらんは吃驚した。
と言うより、面食らった。
別に疚しい事は、＿＿ヴィルから過去を訊き出してしまった事を除けば＿＿そうないので、ひとらんらんからすれば別に拘る事ではない。
夜も着飾り始めた頃だ、他の宿を探せと言うのも色々と面倒だし、そんな事を言う気も無い。
普通なら、「別に良いよ」と言う処である。
Aが女性でなければ、の話だが。
ひとらんらんは女性を差別して居る訳ではない。断じてない。
だから、ひとらんらんは厭がっているのではないのだ。望んでいるかどうかは別にして。
世間一般の常識として、親子や夫婦だと言った家族でも無い限り、女性と男性が同じ部屋で一晩過ごすなどと言う事は、まァ拙い事なのである。
其処に疚しい事実が発生せずとも、同僚や友人と言う清らかに健全な関係だろうと、拙い物は拙い。
ひとらんらんは余程逡巡したが、
「……Aが気にしないんなら、俺は別に良いけど」
と、返した。
要は全て、Aの判断に一任する事にした。
Aは、「私も別に気にしないけど」と微苦笑した。
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2020年1月29日 1時
