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言語や文化などの特有性は、閉鎖的島国の背負う宿命でさえある。
理解できるのには理解できるが、理解できないのには理解に恐ろしく時間がかかる。
Aは、理解のある方だ。
話すのに歯痒くなり、結局言語がひとらんらんの故郷の物になっても、『彼』の特訓もあって大概ついていけるし、その東洋的精神の近くに誰よりもいた訳だから、精神自体を理解するのもさほどAにとって難しい話では無かった。
「【身分は高くもなく低くもなく、恐ろしく贅沢できる訳でも無いけど、食うのに困る様な貧乏もして無くて】」
Aは、ひとらんらんが言葉をあれこれ考えながらゆったりと話すのを、矢張り横になったまま聴いて居た。
聴く側と言うのは、こう言う気分だったらしい。
と、Aはそんな事をちらりと思った。
それはひとらんらんの方も同じで、語る側と言うのは、こう言う気分なのか、と、考えて居た。
過去など話もせず態々訊きもしない二人なので、こんな感覚を味わう事は滅多に無い。
「【＿＿奇麗な街だったよ。家屋とかは洋風の混じり始めたりもしてたけど、……あの国特有の景色だった】」
何て言い表せば良いのか判らねェな、と、ひとらんらんはふと眉を下げる。
鶯色の簡素な着物で買い出しに出ている女中、袴を着た女学生。
将校の制服で歩く青年に、着流しの男。
大道を歩く彼等の眼に髪は、烏の様な黒をしている。
建ち並ぶ家屋は大概木造で、漆喰壁がすっと白い。
単な家もあれば、豆腐屋に呉服屋、莫迦に大きなカメラの写真屋もあった。
眼を閉じれば鮮やかに思い出されるその記憶を然し、Aに上手く説明する術を、ひとらんらんは持たない。
Aが一度はあの風景を見ていれば憶えていたかもしれないが、生憎それは起こり得ない現象だ。
「【……割と、平和な国だったよ】」
ちまちまとした内乱やら事件やらが起きぬ訳では無いが、それさえも、平和の中に組み込まれた模様でさえあったのかも知れない。
今はそんな気が、ひとらんらんはしている。
「【只、国を開いて他所と戦争したりってのがある様な時だったから。俺の兄貴も徴兵されたし】」
年齢などの一定の条件を満たした男は、大概徴兵されて戦地に赴いた。
生存の事は＿＿余り、考えぬが吉である。
ひとらんらんが今生きている理由の一つは、当時の彼の幼さの為と言っても良い。
様々な意味合いを含んで、である。
「【＿＿大和の誇りは、媚びながらでも守れただろうけどな】」
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2020年1月29日 1時
