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「……でも、有難う」
＿＿云い難かった事、話してくれて。
ひとらんらんは自らの煙草も随分短くなっているのに今気が付いて、携帯用の灰皿に煙草をしまいながら、言う。
話したくなかったことを、Aは否定しなかった。
そしてそれだけの価値のある行動だったか＿＿ひとらんらんには、解らない。
「ううん、本当、感謝するのは私の方だし」
Aは矢張り緩く首を横に振り、やや複雑な感情の含んだ笑みで笑う。
そう思うのは、確かにいつも通りの笑みの表情なのに、ひとらんらんがそう感じるだけなのか。
過去を、知った。
『秘密』を、知って居る。
信頼だって、無い訳じゃない。
なら、今この瞬間、Aの一等近くに居るのは、誰なのだろうか。
＿＿その感情を、拾い上げる事が出来るのは。
一体、誰なのだろうか？
自分の立場を、過信したくない。ひとらんらんは常にそう思って居る。
それは彼の故郷の価値観が無意識に彼にそう強要しているのかも知れないが、兎角ひとらんらんは分を弁える事を無意識下で強く課して居る。
他人には他人の領域があるし、ひとらんらんはそれを解って居る。
それを今回は無理に押し入った訳だが＿＿本来はそんな事をするべくもない。
嗚呼なら、自分にその資格はあるのだろうか？
ひとらんらんは、そう内に問い掛ける。
問い掛ける、というよりは、戒める様に。
Aの最も傍に居る者。
それは、フローラでも、システィナでも、ヴィルでも無く、況して自分でなどないのではないか。
Aの生き方を、心臓の奥底まで理解できるのは。
Aの価値観を、誰よりも知っているのは。
或は、A自身ですらない。
自分の事を全て理解できるものなど存在しないからだ。他人が他人の全てを解る事の出来ない様に。
そう、詰りは＿＿＿
『彼』だけなのでは無いか？
其処に思考の辿り着いた時、ひとらんらんは、或る一つの可能性に思い至った。
思考は鈍くながら光り、殆ど彗星か何かの様に突発的で、恐ろしく冷めて、冴えていた物だった。
ひとらんらんの顔色が変わったのをAは認めて、怪訝そうな顔つきになる。
或る種の＿＿怯えや恐れにさえに似た心配を、含んだ目で。
只それを気にする余裕は、今のひとらんらんにはない。
気付きたくない可能性だった。
人間が必ず抱く個としての自尊心の為、気が付いたって激しく否定したくなるような可能性だった。
唯、その可能性を＿＿どうあっても除外できなかった。
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2020年1月29日 1時
