[wrwrd]白に包まる７ (ページ25)

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「多分もう、好きだったんだよな、『空』が」

『彼』と旅をするために、飛ぶ事を憶えた。
幼い背中に生えた羽は、絶望の中にも折れず、空を掴む大きな翼へと成長してゆく。

「クロが死んでから、暫くは外にも出てなかったけど。でもやっぱり、飛ぶのは辞められなかった。……寧ろ、殆ど依存してた」

今もそうと言えばそうなんだろうけど。

Aはそう言って口角を上げた。

確かに、その行為が自らの寿命を削って行くのだと解っている癖に飛ぶのを辞められないAは、『飛ぶ』と言う行為に依存しているのかも知れない。

「呼吸の様な物だ」と断言さえするAから『飛ぶ』のを遠ざける事などできそうも無いから、ひとらんらんの方はもうそれに言及するのは諦めている。

だが、煙草の事もそうだが、ひとらんらんは心中思わずにはいられない。
どうにか、Aから『死』を遠ざける事はできないか、と。

その為に『飛行』は、自らを壊して行くだけ。本当はひとらんらんだって、「辞めてしまえ」と無理にでも取り上げてしまいたい。

そんな事を、ひとらんらんは考えても、実行できはしないだろうが。

「＿＿その時からか」

「うん、自覚したのは」

と、Aはひとらんらんに頷く。

「世界で一番広いのは空だし、何にも縛られない。自由になれる。その時だけは、重力からさえも解放される」

「……全部、忘れられる」

「……でも多分、思い出に浸りたいのもあったんだと思う。一番クロと思い出が深いのは、空の上だッたから」

静かな、声。

確かにシスティナはAの母親代わりのような存在だし、『彼』亡き後、此処までAを大きくした功績の半分はシスティナの物だ。
ヴィルにしろ、一般的な家族に決して劣らない情を互いに感じている。

だが、Aにとっては、その二人にどれほど深い感謝と情を抱こうと、『彼』へ向ける情を上回る事は決してない。

あの日『彼』に会わなければAは、世界をさえ知らず直線的に進む時間の先に、呆気ない死を見た筈なのだ。

空を、風を、人を、世界を。
Aに教えたのは、他でも無い『彼』なのだ。

その『彼』といき、『彼』の散ったのは、『空』。
＿＿Aが何よりも『彼』を感じられる場所。

それが、『空』だったのだ。

幼子には余りに酷な絶望。
Aは既に『彼』の教育の為にか、人を気遣う方法を覚えてしまって居る。

それが行き過ぎたものなのかもしれないと言う考えの、一塊さえなく。