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「政府とかと交渉もあったけど、商人とかとの交渉の方が多かったな。クロは語学に明るくて、何カ国語でも平気で喋って」
横顔の瞳は、記憶の映写機を眺めていた。
「Aは？」とひとらんらんが訊くと、「時々一緒に居たから、ちょっとだけね」と、Aはややはにかんだ。
「本当、変な人だよ。……でも、本当に＿＿」
Aは一度言葉を切り、その端を中空に彷徨わせた。
そして、「やたら慕われてた」と、きッと言おうとした言葉ではない言葉で、括る。
「
Aは思い出したように言う。
楽しそうに、懐かしそうに、眼を細めて笑って。
「だから、商談だとかが纏まったら、皆で呑みに行くんだ。……毎回飲み比べしてたけど、圧勝だったな」
水の様に酒を飲む。
どれほど酒を、それこそ浴びるように飲もうが、全く素面と変わらないので、正真正銘の酒豪である。
実は
故郷の方でも、珍しがられただろう。
之は余談だが、然し如何言う訳か、日出国の酒はアルコール度数がかなり高い。
その為湯で割ったりする呑み方の方が一般的だが、『彼』の場合は当然、その範疇に入らない。
一度、『彼』の部下の不始末の事で、苦情を言いに位の高い相手方が来た事がある。
『彼』はその時丁度、食事に出る処だった。
急遽食事処が変更になって、酒を飲みながら談笑し、結局有耶無耶になった。
一々話を聞き、大きく頷き、歯を見せて大笑いをする。
話をしていて気持ちのいい男なのだ。
独特の交渉術である。
「後、煙草中毒者」
Aはやや子供っぽい笑顔で、指に挟んだ煙草をチラつかせた。
Aが煙草に対して全く抵抗がないのは、そう言う事らしい。
「このジッポー、クロのなんだ」
Aは、先程使った銀のシンプルなデザインのジッポーライターを取り出して、蓋をパチンと開け、閉じる。
道理で、喫煙習慣のない筈のAの物にしては、使い込まれて居る筈だ。
「悪い大人の典型みたいな人だけどね、こう言うと。……でも本当に、他人に全く隔たりない人で、豪放磊落って言うのかな、……良く笑う人だった」
屈託のない豪気な、そして剛毅な、気性。
Aの記憶の中で、彼は矢張り煙草と酒とを携え、大口開けて笑っている。……
ふと、眼が窄まった。
一抹の悲しさが、寂寥感が、滲んで居る。
「……話が逸れたね、御免。私の親分様は、そんな感じの人」
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2020年1月29日 1時
