[wrwrd]白に包まる７ (ページ17)

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「……断片的に聴いた話だし、言いたくないなら言わなくても良いけど」

そう付け加えるのを、忘れないで。

Aは閉じて居た瞳を緩く開け、

.

「……良いよ」

.

と、頷いた。

「……唯余り、周りに話さないで欲しいんだ」

珍しくつけられた条件に、ひとらんらんは一にも二にも無く「勿論」と頷いた。

無論此処でAが語る事を拒否しようと、之を城塞の誰かに言いふらす心算も、寸毫も無いひとらんらんである。

「ヴィルさんからは、何処まで？」

Aはふわりとひとらんらんに流し目を送った。
ひとらんらんは簡潔に、

「……昔、拾われたってこと。空賊だったって事」

と答えた。

「そっか。でも、其処まで話されてると、本当に喋る事がないな」

Aは困ったように笑って見せた。
手の煙草の先から、灰がぱらりと零れ落ちた。

「……そうだなァ。＿＿『クロ』の話から、しようか」

「『クロ』？」

「そ」と、鸚鵡返しのひとらんらんの声に、Aはこくん、と頷いた。

「ひとらんと同郷＿＿なのかな？『日出国(ヒノイヅルクニ)』の生まれ。
　＿＿私の、親分で、師匠で、……親で、恩人」

Aは、眼下の街並みを見下ろした。
夜の静寂が揺らいでいた。

「ヴィルさんから聞いたと思うけど、私はその人に拾われた」

Aは首元から服の中に手を突っ込んで、首にかけていた二つの物を出して見せた。

一つは、鍵。
そしてもう一つは、＿＿メタルプレート。

「……之」

ひとらんらんはプレートを、断ってから指で掬った。
随分古い、錆び付いた金属板に、指で確認すれば、何か文字が彫ってあるのが解った。

ぐっと顔を近づける。
じっと目を凝らせば＿＿

「＿＿『クラウディア』＿＿？」

「そ」

Aの、姓の名だ。

Aは頷いてメタルプレートをひとらんらんから指先で受け取り、噺を続ける。

「私はクロに会う前、教会で居た。っても物凄く小さな教会でさ、子供を養うとか、そういう話が出る所じゃ無かった。だから、引き取られて其処に居たって言うより、行く所がなくて居座ってたって言うか」

「＿＿本当、何で生きてたのか不思議な位」

Aはそう、殆ど感動もない、事実を淡々と述べる様な声で、付け足した。
ひとらんらんは、どき、とした。

それを知らず、Aは続ける。

「私は教会の前で、赤子の時に捨てられてたらしい。孤児院に行かなかったのは、そんな時代じゃなかったからかな」