[wrwrd]白に包まる７ (ページ15)

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男のシャワーに、そう時間はかからない物である。
一時間の半分も無く、ひとらんらんは、短い黒髪をタオルでガジガジとやや乱雑に拭きながら、シャワールームから戻って来た。

上がったよ、と言おうとして、ひとらんらんは、戻った部屋に人気のないのに気が付いた。

「……？」

ひとらんらんはやや訝しんで、部屋をくるりと見渡す。
そして、先程閉めた筈の大きな窓のカーテンが半分開いて居るのに気が付き、

(……否、まさかな？)

と、一瞬可能性を放棄しかけたが、否、と、思い留まる。
髪を拭く手は自然に止まる。

月を見たいがために氷雨の降る夜を傘も差さずに歩いたのが居た筈である。

「……」

出来ればそうあって欲しくは無いのだが、この状況だ、寧ろそれを否定する事の方が難しい。
少し気は進まなかったが、＿＿念のため自分の上着を手に、窓に近付く。

窓が大きかったのは、其処からバルコニーに出られるかららしい。
窓に鍵はかかって居ない。

大きな硝子窓に、ひとらんらんの姿が鏡のように映る。
そしてその像の向こう、探し人は確かに其処に居た。

からり、と窓を開け、近付く。

彼女は柵から上半身を乗り出すように、柵に凭れ掛っていた。
空を見上げていた。

ひとらんらんに気付いた様子はない。

その背に自らの上着を、ひとらんらんはかけてやった。
其処で漸く彼女は、下した髪をふわりと膨らませ、振り返る。

「ひとらん」

「風邪ひくよ」

ひとらんらんは、Aの隣に並んだ。
街並みと空と、全ての景色に、夜が浸透していた。

「君の方こそ」

「柔な鍛え方はしてない」

ひとらんらんは、背の方から柵に寄りかかった。
移った視界に、しめやかな月光が、煌々とその辺りの空を青白く照らして居る。

「……煙草なんて吸ってた？」

ふと燻った一抹、ひとらんらんの知った香りに、隣を見遣ると、Aは穏やかな無表情で、指に挟んだ煙草の紫煙を見詰めていた。

「吸えるよ、日常的に吸わないだけで」

Aはくす、と笑う。
喫煙者は煙草に魅入って中毒性に溺れるのが定石だが、Aはそうではないらしい。

「嫌いだった？」

「別に、と言うか、俺も吸うし」

喫煙の習慣がないではないひとらんらんである。他人の紫煙に文句を言う立場ではない。

ひとらんらんに、Aはやや意外そうに目を瞬かせる。

「そうだった？私の前じゃ吸ってなかったと思ったんだけど」

「吸ってないよ、彼奴ら程中毒じゃないし」