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「……忘れる?」
ゆっくりと大鵬が頷いた。
「必死に生きようとすることをだ。……長く生きれば生きるほどに、よりよく生きようと努力することを忘れてしまう」
「……」
「進歩しようとしない。歩みを止めた状態だ。……それは生きているといえるか?」
「……でも、大鵬は私にいろんなことを教えてくれたよ! 大鵬達はちゃんと生きていて、私にたくさんのことを教えてくれた!」
「そう思うなら、我もAを花嫁として迎えたかいがあったな……」
そういって、唇を重ねてくる。
「A、我の願いを聞いてくれるか?」
「……何?」
大鵬の目が真剣だった。
だから。
私も真剣に聞いた。
「我は人が好きだ。その営みが好きだ。例え我を忘れようと、より良い未来(あす)を掴もうと努力するその姿が好きだ。そうして、人はその未来(さき)で幸せを掴める力を持っている」
「……」
「我はそうして、多くの人が生き続ける世界を望む」
「でも、それじゃあ……!!」
――大鵬は滅びてしまう。
そう言おうとした唇をまたふさがれた。
「未来で多くの人が幸せに生られるのであれば、我は我の命をいつでもくれてやろう」
「……大鵬」
「A、人を憎むのは構わない。だが、お前も人だ。そして、お前の憎しみが吹き飛ばした兵士達……彼らにも家族があっただろう」
「あ……」
私は自分の憎しみに囚われて、見えていなかったことを突きつけられた気がした。
「私は……あの人たちの家族を、私と同じ気持ちにさせた?」
気が付いて、体が震えた。
大鵬が強く、強く抱きしめてくれる。
……私の震えを止めようとするかのように。
「……それでも、その家族もいずれ前を向いて生きていく。それが、人の強さだ」
静かに大鵬が耳元でささやいた。
*
(――どうしよう)
私は取り返しのつかないことをしてしまった。
そう、思い始めていた。
神様も、人も……失った命は帰らないから。
まだ、私は人を許せないけど。
でも。
それで、人を消すのは違う。……そう思い始めていた。
なのに。
私の力は止まらない。
暴走して溢れ出る神通力を。
今。
私自身が、持て余していた。
すると。
「――大丈夫だ」
大鵬の声が力強く響いた。
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一花(プロフ) - 零玲飛(れいれと)さん» コメント有り難うございます。そう仰っていただけ、非常に嬉しいです。ここまで目を通してくださったことに感謝します!! 本当にありがとうございます。 (2015年1月28日 21時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - 感動して泣くかと思った。お疲れ様です。 (2015年1月22日 20時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂さん» ありがとうございます。……誤字量の多さが(-_-;) しっかり読んでくださり感謝します。また、後日直します。そして、番外編の件……有り難うございます! おそらくひと月以上開けて、とか忘れたころになるかと思いますが、宜しければ、お願いいたします(多謝) (2015年1月15日 22時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - (続きです) 43話目の下から9行目 「まずはこのの人の」→「まずはこの人の」 だと思います! 一応番外編までは確認しようと考えておりますが、もし本編のみで良ければ返信くださると助かります。あ、遠慮はなさらないでくださいね。 (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - 深夜にすみません。 37話目の下から16行目 「それだだけ」→「それだけ」。 40話目の13行目 「私をの力を」→「私の力を」。 同じく下から8行目 「温かな光のなで」→「温かな光の中で」。 41話目の9行目 「大鵬のい気配」→「大鵬の(いる)気配」。 (続きます) (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一花 | 作成日時:2014年8月31日 10時