一九章『地獄』 ページ24
*
――憎い。怖い。痛い。
――許せない。呪ってやる。
――悪鬼どもめ。
館の前の池にたどり着いたら。そこにはいつもある清涼な気や大鵬の神気はなかった。
変わりに、赤くどす黒い色にそまっていた池から、そんな怨嗟の声が聞こえた。
もう、喋ることの叶わない人の声。
それから。
この山や池に住んでいた生き物たちの声。
山……自然の声。
全ての生あるものの憎しみが、混ざり合っていた。
……人は神様を恐れ、山を焼いた。
その炎は、神様だけじゃない。辺りに住まう鳥や獣も焼いた。
人は神様を消そうとした。
その代償に、山の生き物の恨みを買った。
その恨みが瘴気となって辺りに立ち込めていた。
瘴気は人を祟り、何人かを池の中に引きずり込んだのだろう。
人も山の生き物もお互いを恐れ、憎む。
その気持ちが空気に交じって、ピリピリと肌に刺すような痛みが走った。
青蘭がくれた榊のおかげで、私は瘴気にあてられなかったけど。
それでも痛かった。
「……青蘭、大丈夫?」
雲進を降りて、館に入る前に私は守り役の少年を見た。
「――あぁ」
頷いた声はかすれている。
彼の顔にはうっすらと脂汗が浮かんでいた。
(まずい……)
今すぐ館に入りたかったけど。
ここをこのままにしていては、ただ憎しむことしか知らない魍魎が生まれてしまう。
「ちょっとだけ待って」
私は短く少年に告げた。
そのまま帯にある羅刹を構えた。
(……私だって、朱ノ姫を失った)
人を一切憎んでない、といったら絶対嘘になる。
(でも、このままじゃ、この山自体が呪われてしまう)
人は嫌だと思った。でも、この山は私が家族と過ごした場所。
そこを草の一本も生えないような呪われた……死んだ場所にはしたくなかった。
だから。
「高天原爾 神留坐須」
浄化の祝詞を唱える。
「神漏岐 神漏美乃 命以知�読」
唱えながらそっと扇を広げた。
「皇親神伊邪那岐乃大神」
私の言葉を受けて、鉄扇が輝く。……淡く白く、そしてうっすら銀色に。
「筑紫 日向乃 橘乃 小門乃 阿波岐原爾」
言の葉を紡ぐたび、その輝きは増す。
私の神通力を扇に注ぎ込む。
「禊祓比給布時爾 生坐世留 祓戸乃大神等 諸々禍事罪穢乎 祓閉給比 清米給布登 申須事乃由乎」
すでに毎日注いで凝縮した神通力。
それが、新鮮な力と混ざって浄化の力が増幅されていく手ごたえを感じた。
「天津神 地津神 八百万神等共爾」
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一花(プロフ) - 零玲飛(れいれと)さん» コメント有り難うございます。そう仰っていただけ、非常に嬉しいです。ここまで目を通してくださったことに感謝します!! 本当にありがとうございます。 (2015年1月28日 21時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - 感動して泣くかと思った。お疲れ様です。 (2015年1月22日 20時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂さん» ありがとうございます。……誤字量の多さが(-_-;) しっかり読んでくださり感謝します。また、後日直します。そして、番外編の件……有り難うございます! おそらくひと月以上開けて、とか忘れたころになるかと思いますが、宜しければ、お願いいたします(多謝) (2015年1月15日 22時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - (続きです) 43話目の下から9行目 「まずはこのの人の」→「まずはこの人の」 だと思います! 一応番外編までは確認しようと考えておりますが、もし本編のみで良ければ返信くださると助かります。あ、遠慮はなさらないでくださいね。 (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - 深夜にすみません。 37話目の下から16行目 「それだだけ」→「それだけ」。 40話目の13行目 「私をの力を」→「私の力を」。 同じく下から8行目 「温かな光のなで」→「温かな光の中で」。 41話目の9行目 「大鵬のい気配」→「大鵬の(いる)気配」。 (続きます) (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一花 | 作成日時:2014年8月31日 10時