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ページ20

「え……?」

「朱のババァだけじゃない。老師父様も大鵬様も。……俺たちを京から離し、東国へ逃がして生かす。……その時間を作るために戦うことを選んだ」

「なん、で……」

視界がにじんだ。鼻の奥がツンとして。のどが詰まって声が出ない。

「――Aは人だから、人として幸せになれる。だから逃がす。そう大鵬様は仰った」

「……青は?」

「俺は大鵬様達よりもまだ若い。だからこそ、生き残ってもっと別の広い世界を見ろと言われた。もちろん、守り役としてお前を守ることが前提だ」

言いながら、青蘭の拳がきつく握りしめられるのがわかった。
声は平静を装っても、その腕は震えている。
……青蘭だってやりきれない、納得できない……そんな思いを抱えていると感じた。
そして。
それは、私もだ。
――私は人間。
でも、大鵬の花嫁だ。そして、家族のぬくもりを知ったのは、人里でのことではない。
私に、誰かとともにいる喜びを教えてくれたのは、大鵬達。――ほかの人が『鬼』や『化け物』と呼ぶようになったとしても。私にとって、彼らは神様であり……、『家族』だった。

「……私は、家族を見捨てない」

自分でもびっくりするくらい低い声が、無意識のうちに口からこぼれた。
一度、気持ちを呟いたら、決心が固まった。

「青! 館に戻るよ!!」

「――なっ!?」

驚いた顔をされた。

「お前、俺の話聞いていたのか!? 今あの山はどうなっているかわかってるのか?」

「だからだよ! 私は家族がころされるかもしれないのに、自分だけ逃げるなんてできない! 青だって、本当はそうなんでしょう!?」

「馬鹿か! 戻ればどうなる! 朱のババァの想いも、大鵬様の願いも無視する気か!?」

私はわなわなとふるえる、青蘭の拳にそっと手を重ねた。

「大事な家族の願いはかなえたいよ? でも、私は自分だけ助かるのはやだ。自分だけ安全なところに逃げるなんてできない。青だって本当は嫌なんでしょ?」

「――っ」

「だから、こんなに震えてる」

私は青の拳を頬に寄せるようにして、その振動を感じた。
一度目をつぶる。
そして、ゆっくり開いた。

「私は大鵬の花嫁だもの。逃げるなら夫も……家族も一緒に」

しっかりと青蘭の目を見て言い放つ。

「戻ろう。家族のもとへ!」

「……」

しばらくの沈黙の後。
青蘭は静かにうなずいた。
私達は雲進に乗って、急いでもと来た道を戻ることにした。

一八章『告白』→←▼



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設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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一花(プロフ) - 零玲飛(れいれと)さん» コメント有り難うございます。そう仰っていただけ、非常に嬉しいです。ここまで目を通してくださったことに感謝します!! 本当にありがとうございます。 (2015年1月28日 21時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - 感動して泣くかと思った。お疲れ様です。 (2015年1月22日 20時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂さん» ありがとうございます。……誤字量の多さが(-_-;) しっかり読んでくださり感謝します。また、後日直します。そして、番外編の件……有り難うございます! おそらくひと月以上開けて、とか忘れたころになるかと思いますが、宜しければ、お願いいたします(多謝) (2015年1月15日 22時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - (続きです) 43話目の下から9行目 「まずはこのの人の」→「まずはこの人の」 だと思います! 一応番外編までは確認しようと考えておりますが、もし本編のみで良ければ返信くださると助かります。あ、遠慮はなさらないでくださいね。 (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - 深夜にすみません。 37話目の下から16行目 「それだだけ」→「それだけ」。 40話目の13行目 「私をの力を」→「私の力を」。 同じく下から8行目 「温かな光のなで」→「温かな光の中で」。 41話目の9行目 「大鵬のい気配」→「大鵬の(いる)気配」。 (続きます) (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一花 | 作成日時:2014年8月31日 10時

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