夏が死んだその日【文スト】【東京喰種】

最強でも完璧でもなく普通の ページ23

柔らかく、風が吹く。
ヒュォォォ…とありきたりな効果音でも付きそうだ。
しかし、互いに目を合わせ、構えるだけで動かないその緊迫感は、まるでカウボーイとかの西部系アニメの様な緊迫感。
どっちが先に動くか。

その緊迫感は弓が引き分けられ矢が発射されるのを待つ様に、
風船に空気がじわりじわりと出される様に
葉に落ちた雨が葉の先に溜まり、重みで葉がしなり、水滴がいつ落ちてもおかしくない様な、
徐々に張り詰められていく緊迫感だった。


呼吸、鼓動、服の擦れる音、銃に玉を込める音。


それが聞こえ、カチ、と銃を発射する前の動作の音が聞こえる。
騒めく大衆の声はもはや耳に入らない。


緊迫感が限界を超える時、どの声やどの騒音よりも大きく、銃声が聞こえた。


始まった。
私は赫子を出し、弾を叩き落とす。
その瞬間に、彼らが一斉に立ち向かってくるのがわかる。


「何人いても、ヒトはヒト！皆んな、他の世界では糧になるんだよ。」


と、みんなに聞こえる様に声を発する。
それと同時に、銃を撃つ、ナイフを振りかざす彼らに私は一つも容赦せず、返り討ちにする。
ただ、殺しはしない。
何せ、私の目標は彼らを守り、認められて、且つ喰種としての死を迎えることだからだ。

私は赫子を駆使する。惜しみなく使う。


「なんだよこいつ…！！」

「本部に連絡を！！」


そう叫ぶ人そして、本部に連絡しようとした人の手や脇腹を赫子で優しく叩く。
赫子の叩くは人の手を余裕で折ってしまう。別に折ってもいいが、そこまでの趣味はない。
でも優しく叩いてもかなり吹っ飛んでしまう。


「おいでおいで。殺しはしない。優しく叩く、それだけだよ。」


と、彼らに手招きをする。
しかし、誰も来なくなってしまった。
私は赫子をうねうねとさせる。

私の赫子はまるで継ぎ接ぎの布で作られた、なけなしのぬいぐるみのようだ。
しかし、手作りには心が篭る。それが怨念だろうが、なんだろうが。
そこが、私の強みでもあるとかっこよく考えている。

そう考えなければ、こんな人造人間の様な私を受け入れられない。
赫子が10本なんて、もはや化け物だ。
私は別に最強の化け物になりたかったわけでも、完璧な喰種になりたかったわけでもない。

普通の、子。
普通の人の子で生まれたかった。



「貴様。」



そう、後ろから声がする。
その声は聞いたことがある上に、なんなら一瞬で誰だかわかった。

本来の姿→←襲撃を襲撃する独りの喰種

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す