side:gr３ ページ46
グルッペンさんの車で送ってもらった学校。
久しぶりに訪れた場所だけど、足は迷いなく進んだ。
なぜかそこに彼がいるという確信があったから。
扉を開けると優しく吹く風。
壁の裏側に回ると、やはりそこにいた。
いつものように白煙を空に浮かべる鬱先生が。
「久しぶりやな。」
「はい、お久しぶりですね。」
それ以上は何も言わず、鬱先生の横に座り同じように空を眺める。
不思議と心は凪いでいた。
この場所から見る空はこんなにも高く青かったのか。
いつも彼の吐き出す煙ばかりを目で追って、彼の事しか見えていなかった。
そっと鬱先生の横に置かれた手の上に冷たい手が重なった。
彼に触れる私の手はこんなに冷たかっただろうか、もっと熱かったような気がする。
「こんな風に手を握ったことなかったな。」
「ふふ、なんだか可笑しいですよね。」
顔を見合わせて微笑み合う。
彼と話す時はこんな気持ちだっただろうか、こんなにも穏やかだっただろうか。
「好きなんやけど。」
「私も好きです。」
恋が実るのはこんなものなのだろうか。
ここで初めて鬱先生に抱かれて時の方が、ずっと幸せだったような気がする。
ゆっくりと近寄る鬱先生の顔に、そっと目を伏せた。
これが幸せということなのだろうか。
「…佳乃。」
久しぶりに鬱先生に呼ばれた名前。
反射的に目を開いて、彼の胸を手で押さえた。
「あ…。」
驚いた顔をする鬱先生。
自分でも無意識にした自分の行動に驚いていた。
なぜ、どうして。
鬱先生に名前を呼ばれた瞬間、よぎったのは金色の髪の彼の事だった。
優しく私を見つめるあの赤い目に心を覗かれた。
『佳乃』
重ねてしまった、比べてしまった。
鬱先生の呼ぶ私の名前に彼の声を、鬱先生が私に触れる手の温度を彼の手と、包み込む匂いさえも。
前に私が彼に触れられるたびにしていた事を、今度は鬱先生に対してしてしまった。
ふっ、と零れた笑い声に顔を上げると鬱先生は私に向いていた体を離し壁に背を預けた。
そしてまた空を見上げたまま口を開く。
「やっぱグルちゃんには勝てへんな。」
困ったように笑う鬱先生の横顔。
あんなに好きだったはずなのに、なぜかもう心が動かない。
「全部終わりにする言うたやろ？多分あん時に僕たちは終わっとんねん。」
「……すいません。」
「謝らんといてよ、僕ヤリ逃げされたの初めてやねんで？傷つくわぁ。」
いつも軽い口調なのに、応えられなかった。
私たちの関係は自分たちでも気付かない内に、とっくに終わっていたのだ。
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違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アオ - コメント失礼します。思わず一気読みしちゃいました！貴方様は神ですか？ありがとうございます。 (2022年1月28日 22時) (
レス) id: 99e64baad8 (このIDを非表示/違反報告)
か(プロフ) - この作品を生み出してくれて本当にありがとうございました。 (2020年3月30日 16時) (レス) id: f33d68be6d (このIDを非表示/違反報告)
なな - 単推しとニ推しとか…もうにやけとまんねぇ() 語彙力分けてほしい(( (2019年9月7日 17時) (レス) id: 49b689c972 (このIDを非表示/違反報告)
藤宮、(プロフ) - コメント失礼します…！！もう文面も設定も好みのドストレートすぎて思わず一気に読んで、衝動的にコメントを書いてしまいました。本当に楽しませていただきました。素敵な作品をありがとうございました！！ (2019年1月11日 0時) (レス) id: b4451f6a6c (このIDを非表示/違反報告)
みたら士(プロフ) - 一話目からドストライクすぎてﾝﾝｯｯってなってます本当にありがとうございます崇めます (2018年12月3日 21時) (レス) id: d493129e91 (このIDを非表示/違反報告)
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