２６ ページ26
冷たい声だった。
いつもそっけない話し方のグルッペンさんだけど、こんなに色を無くした声色を聞いた事がなかった。
気付かれてしまった、隠しきれなかった、私の心に芽生えた鬱先生への感情に。
自分勝手に彼を利用して傷つけた。
怒りや悲しみ、痛ましくて見ていられない顔だった。
「ごめん、なさい…。」
俯いて謝罪の言葉を言う事しかできない。
そんな言葉を彼が求めているわけではないという事なんて分かっている、だけど私にはそれしかできなかった。
「なぜ謝る。」
「…あなたを利用したから。」
「大先生と話す口実に？」
「えぇ、それにこの気持ちが知りたくて、あなたから学ぼうとした。」
「だから俺のキスに応えたのか？」
「そう、ね…。」
口に出してしまえば自分が彼に対してどんなひどい仕打ちをしたのか自覚する。
もし自分が同じ事を鬱先生にされたら？
耐えられない、とても悲しくて悔しい。
グルッペンさんは私の全てを奪った。
だけど彼が私に対してひどい扱いをした事なんて一度もない。
むしろ大切にしてくれた、私の気持ちを大事にして無理やり体を奪う事もしなかった。
誠実だった。
なのに私は彼の気持ちを裏切って踏みにじった。
足の横で握り締められた彼の拳が震えている。
いっそ殴ってくれたら救われるのに、それすらも自分のエゴでしかない。
「本当にごめんなさい。」
再び下げた頭にグルッペンさんの怒りを堪えるような、自分を落ち着かせるように吐き出す息の音が聞こえた。
「それでも俺は、佳乃が好きや…。」
絞り出すように呟かれた言葉に顔を上げる。
真っすぐに私を見るグルッペンさんの表情は告白をするにはあまりにも苦しい表情だった。
恋というものはこんなに自分も相手も苦しめるものなのか。
「…私はあなたに想われるような良い人じゃない。」
「それでも、利用されてたと分かっても嫌いになれない。」
「………。」
「頭では分かってても止められないんや、分かるやろ？」
無言は肯定。
分かってる、止められない、自分の心が言う事を聞いてくれない。
だめだと分かっている、私に興味がない事も、それでも鬱先生を想う気持ちが止められない。
卑怯な事だって平気な顔でやってしまうほどにセーブができない気持ち。
今のグルッペンさんの気持ちが痛いほどによく分かってしまう。
「だから諦めなくていい、俺も諦めん。」
「えっ…。」
「大先生を落としてみろ、その前に俺に惚れさせる。」
グルッペンさんの言葉に目がじわりと熱を持った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 532人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アオ - コメント失礼します。思わず一気読みしちゃいました！貴方様は神ですか？ありがとうございます。 (2022年1月28日 22時) (
レス) id: 99e64baad8 (このIDを非表示/違反報告)
か(プロフ) - この作品を生み出してくれて本当にありがとうございました。 (2020年3月30日 16時) (レス) id: f33d68be6d (このIDを非表示/違反報告)
なな - 単推しとニ推しとか…もうにやけとまんねぇ() 語彙力分けてほしい(( (2019年9月7日 17時) (レス) id: 49b689c972 (このIDを非表示/違反報告)
藤宮、(プロフ) - コメント失礼します…！！もう文面も設定も好みのドストレートすぎて思わず一気に読んで、衝動的にコメントを書いてしまいました。本当に楽しませていただきました。素敵な作品をありがとうございました！！ (2019年1月11日 0時) (レス) id: b4451f6a6c (このIDを非表示/違反報告)
みたら士(プロフ) - 一話目からドストライクすぎてﾝﾝｯｯってなってます本当にありがとうございます崇めます (2018年12月3日 21時) (レス) id: d493129e91 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
