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「終わりやって言わんかった？」
英語科準備室で煙草に火をつけた鬱先生は顔をこちらに向けず、一度だけ視線で私を批難するように見た後でまたその視線を前へ向けた。
「自意識過剰ですよ、生徒が先生に会いに来ただけでどうしてそんな発想になるんです？それとも鬱先生に会いに来る生徒は皆それしか頭にないんですか？」
「自分やってそればっかやったのによぉ言うわ。」
確かに。
今まで自分が先生に会いに来る理由といえばそんな浅ましい理由しかなかった。
苦笑いを浮かべて、背中で組んだ両手を固く握る。
鼻をくすぐる煙草の匂い、相変わらずの鬱先生の言葉。
こうして自分の手を握っていないと触れたくなってしまう。
鬱先生が好き。
そう言えたらよかった。
あの人と先生が何の関係もない、他人だったら。
あの人と私が婚約していなければ。
全てを諦めた私がこんなたらればを思うようになるなんて。
せめて、繋がりだけは残したかった。
私を変えてくれた人。
私に全てをくれた人。
「ねぇ先生、私今度はいい女になるの。」
「染井ちゃんは充分ええ女やと思うけどな。」
「あの人を愛して、子供を産んで、幸せな家庭を築くの。」
「グルちゃんとならできるやない？いい男やで。」
つまらないって顔したね。
普通の女になったなって、失望したなって、そんな顔。
「ねぇ先生、私のリボン知りません？」
「あぁそれならこの前ここに…。」
先生に終わりにしようと言われた日。
自ら解いた制服のリボンはやはりここにあった。
机を漁り始めた先生に一歩、また一歩ゆっくりと近寄る。
胸のボタンを一つ外して
「ほら、これや…ろ。」
顔を上げた鬱先生が一瞬固まる。
見えてる？先生。
あの人が私につけたたくさんのマーキング。
あの人の瞳のように赤く、強く主張するそれは確かに鬱先生の視線を捕まえた。
「やっぱりここにあったんですね、ありがとうございます。」
「ん、随分激しいんやな。」
「意外ですよね？淡泊そうなのに。」
クスクスを笑い声を漏らせば鬱先生もニヤリと笑う。
先生の手からリボンをしゅるりと抜き取る際に、一瞬だけ触れた先生の手はいつもより冷たかった。
きっと私の手が熱いのだろう。
あの人の私に触れる手があんなに熱いのは、今の私と同じ理由だからだろうか。
「これからはただの生徒と先生としてよろしくお願いしますね。あぁそれから未来の旦那様のご友人としても。」
「りょーかい。」
煙草を片手に手を上げた鬱先生に背を向ける。
どんな形であれ、まだ先生との繋がりを持てる。
それだけで充分だった。
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違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アオ - コメント失礼します。思わず一気読みしちゃいました！貴方様は神ですか？ありがとうございます。 (2022年1月28日 22時) (
レス) id: 99e64baad8 (このIDを非表示/違反報告)
か(プロフ) - この作品を生み出してくれて本当にありがとうございました。 (2020年3月30日 16時) (レス) id: f33d68be6d (このIDを非表示/違反報告)
なな - 単推しとニ推しとか…もうにやけとまんねぇ() 語彙力分けてほしい(( (2019年9月7日 17時) (レス) id: 49b689c972 (このIDを非表示/違反報告)
藤宮、(プロフ) - コメント失礼します…！！もう文面も設定も好みのドストレートすぎて思わず一気に読んで、衝動的にコメントを書いてしまいました。本当に楽しませていただきました。素敵な作品をありがとうございました！！ (2019年1月11日 0時) (レス) id: b4451f6a6c (このIDを非表示/違反報告)
みたら士(プロフ) - 一話目からドストライクすぎてﾝﾝｯｯってなってます本当にありがとうございます崇めます (2018年12月3日 21時) (レス) id: d493129e91 (このIDを非表示/違反報告)
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