【wrwrd!】総統の愛した甘味屋さん

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「手土産を作らせて貰えませんか？」

これは賭けだ。
もし手土産がグルッペンの手に渡る事があれば気付いてもらえるかもしれない。

「手土産？あぁ得意のお菓子で気を引く作戦？案外Aって強かだよね。」
「だめですか？」
「んー、いいよ。Aが僕にキスしてくれたら。」

頭の天辺を鈍器で殴られたような感覚だった。
愉悦の表情を浮かべる王子を前に目の前が真っ暗になる。
そうだ、こういう人だったじゃないか。
なぜこの王子が見返りもなく私の願いを聞き入れてくれるだなんて思っていたのだろう。
自分の間抜けさに呆れてしまう。

「どうするA？しないなら部屋へお戻りよ。」

グルッペン、グルッペン、グルッペン…！
固く目を瞑ってグルッペンの名前を叫ぶ。

あなたにもう一度会えるなら、こんな事なんでもない。
心を殺して王子の唇に軽く触れるだけのキスをした。

「はははは！あんなに僕に触れる事を嫌がってたのに！やっぱAは面白いね！」
「…約束は、守って下さい。」
「いいよ、早く厨房へ行って作っておいで。」

踵を返して厨房へ駆け出した。
何度も心の中でグルッペンの名前を呼びながら唇を手で拭う。
こんな事、なんでもない…。
そうは思っても涙は止まる事がなかった。


クッキー、チョコレート、シフォンケーキ…。
時間の許す限り必死に手を動かした。
持ち帰りができるもので、グルッペンに作った物と同じ物をできるだけたくさん。
まるで昨日の事のように鮮明に思い出せるあの幸せな日々。
その中の一つでもあなたの記憶に残っていればいい。

「A様、リヒト様がお呼びです。」
「はい。」


連れられた応接間で待っていた王子とオスマンさん。
４年前に雑誌で見たオスマンさんと全く同じ。
柔らかそうな微笑みに、上品な佇まい。

本物のオスマンさん、グルッペンの仲間。
涙が出そうなのをぐっと堪えた。

「彼女は僕専用のパティシエでして、とても腕がいいので今回の手土産は彼女にお願いしたんですよ。」
「それはそれは、ありがとうございます。私、ワズルで神官をさせて頂いております、オスマンといいます。」
「Aです。お口に合えばよろしいのですが…ぜひワズルの皆さまで召し上がってください。」

ふわりとした笑顔でお菓子を受け取るオスマンさん。
お願い、どうかこれをグルッペンへ届けて。
お菓子を渡しながら、心の中でそう願った。

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