小さな願い 8 ページ35
誰も来ない境内で、二人で静かに、暖かに暮らす。
平凡、平穏。何てことはない。
今日も、どこかの昔話と、違う世界の作り話と歌と。
ふと、思い立って、私たちは土手に出かけた。
「どこだ…?ここ」
『マスター、来たこと、あるんですよね?』
「あぁ、何度も。でも、変わりすぎているんだ。何もかも」
川があることから、元土手だったという場所は分かった。
駄菓子屋も、古紙回収ゾーンも、芝生もない。
落ち着かなくなるほど小綺麗に舗装されたビル街と道と、ピカピカと光る巨大な橋。
『時が経つのは……早いのですね』
釣りをしているような人も、いない。
もう、爺は生きていないのだろうな。奥さんと一緒に、静かに安らかに、眠っていてほしい。
ふと、カイトの横顔を見上げる。
「お前は、この年月の間も、何も変わらないな」
『マスターこそ』
至る所にある、再開発と書かれた札を横目にして私たちは境内へ帰った。
「絶対なんて、無いんだな」
『それは違いますよ、マスター』
「え?」
『絶対なんて絶対ない、ってそれはもうすでに絶対です』
「なんだよ、洒落かよ」
笑ってカイトの顔を見ると、彼は微笑んで、でも真剣な目をしていた。
『過去は変えられない、そういう言葉がありますよね』
「あぁ」
『それは、変えられない過去をくよくよするより明るい未来を見よう、変えられる未来をいかにしよう、そういう言葉であると同時に……
どんなに全てが変わっていくように見えても、そのときそこにあったこと、その時間は確かに存在していた、その事実は動かず、絶対であるんだ、そういう言葉なんだと僕は思います』
何千年か、何万年か、もう忘れるほど生きてきたけれど。
君は、また私の初めてになったね。
そんなこと、私に教えてくれた奴、君くらいしかいないよ。
『そろそろ、寝ましょうか』
「そうだな」
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あかり - 糸魚川翡翠@京都より帰還さん» 翡翠ちゃんは帯人が好きなんですよね? (2016年2月29日 19時) (レス) id: b06cf0ef99 (このIDを非表示/違反報告)
糸魚川翡翠@京都より帰還(プロフ) - あかりさん» ただいま! そうね、短編集の方ではあまり亜種は書かないからな。 (2016年2月29日 10時) (レス) id: 9384caea49 (このIDを非表示/違反報告)
あかり - 翡翠さん!おかえりなさい!やっぱりヤンデレカイトでしたか! (2016年2月28日 20時) (レス) id: b06cf0ef99 (このIDを非表示/違反報告)
糸魚川翡翠@京都より帰還(プロフ) - あかりさん» YESヤンデレカイト!! ラストの一言ってところがお気に入りです。 (2016年2月28日 11時) (レス) id: 9384caea49 (このIDを非表示/違反報告)
糸魚川翡翠@京都より帰還(プロフ) - あかりさん» 書いてる私のテンションも高かったりしますw (2016年2月28日 11時) (レス) id: 9384caea49 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:糸魚川翡翠 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hisui0327/
作成日時:2015年10月11日 10時