第十幕。彼女と扉の向こう側。 ページ43
Aはよく話し、よく笑い、外見と違わぬまだ幼さの抜け切らない少女でした。
「ここにいると気が滅入る。」
Aは苦笑いしましたが、無理も無いと江雪は表には出さずに心を痛めました。
窓は無く暦どころか時計も無い座敷牢のようなこの部屋、扉は厚く外の音も殆ど聞こえません。風呂や厠もあるこの部屋は徹底してAを隔離するもの、鳥籠ですら空を見上げることが出来るというのに……。
異常な程の外部からの隔離は心の均衡が崩れてもおかしくないものでした。
そんな部屋にまだ幼いAが閉じ込められる、仕方のないこととは言え胸が痛みました。
「自由に歩き回りたいとまでは言わないけど、せめて、少しだけこの部屋から出たいなーって……思っちゃうのよね……」
「それは……なるべく外を見せないように、と主と三日月の意向ですから……」
「うん、なんとなく理解できる。ここの三日月あたしが思い通りにならないと怖いから。あたしここから出ると殺されちゃうかもね！」
あははと明るく戯けて言いますが、半分本気であることは互いに分かっていました。
「……そろそろ、戻ってくるのではないでしょうか？」
「そうね、また、会える？」
「……運が良ければ。」
「そうだ！あたしがむこうに帰ったら江雪さんを招待してあっちの兄さんと小夜ちゃん達を紹介するわ！あたしがお世話になったんだから、お礼もしたいもの！」
兄さん達にお願いして一緒にお団子作っておもてなしするわとにこにこして話すAですが何も言わない江雪に不安そうに眉を下げました。
「迷惑だった？」
「……いいえ、驚いただけです。」
楽しみにしていますよと頭を撫でれば嬉しそうにAは笑いました。
早く帰りたいな、厚い扉の向こう側に希望を見るAを見ないよう江雪も開かない扉を見つめるのでした。
鍵が開いたのは少ししてからでした。
「A、戻ったぞ。変わりはなかったか？」
「短時間よ、変わりないわ。」
「……お帰りなさい、だろう？寂しかったな？」
「お帰りなさい、寂しかったわ。」
機嫌良く帰ってきた三日月でしたが、その瞳が出る前よりも澱んでいるように江雪には見えました。
「……ご苦労だったな江雪。Aが世話になった。」
「いいえ、私はこれで……。」
慣れた、抑揚の無い無機質な何時もの三日月の声でした。
Aとはあえて顔を合わさぬよう背を向け、江雪は厚い扉のむこう側へと戻りました。
第十一幕。彼女と彼女の心境の変化。→←第九幕。彼女ともう一人の江雪左文字。
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菱神 昂(プロフ) - 特にリクエストはいただかなかったので、祭り会場は小ネタ置き場に改造いたします。 (2015年5月1日 20時) (
レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
菱神 昂(プロフ) - 御礼祭リクエスト受付は本日21時からです。リクエストは必ずお知らせを熟読された上でお願いします。ある意味キーワードの代わりとなりますのでよろしくお願いいたします。著者。 (2015年4月30日 14時) (レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
菱神 昂(プロフ) - (3k猫*´∀`*){よきかな〜♪さん» コメントありがとうございます！この章から漸く本線が始まるなという感じです。今から更に盛り上がる筈ですのでこれからも椿切と本作をよろしくお願い致します！ (2015年4月9日 23時) (レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
(3k猫*´∀`*){よきかな〜♪ - お〜！だんだん話が盛り上がってきましたね！更新頑張ってください！ (2015年4月9日 19時) (レス) id: fdc932d927 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：菱神 昂 | 作成日時：2015年3月6日 23時
