第九幕。彼女ともう一人の江雪左文字。 ページ42
コンコンという軽いノックの後、遥香が部屋へ入ってきました。
「三日月、貴方にお話しがありますの。開けてくださらない？」
「俺に話し、か。あい分かった、A、悪いが留守番していてくれ。」
「留守の間は他の者にAちゃんを頼むから……あらあらまあまあ！よくお似合いになって、本当に夫婦刀みたいですわ。」
狩衣に着替えたAを見るや遥香は頬に手を当て恍惚と微笑みました。
「悪いが江雪、Aを頼む。下手なことはするなよ？」
「ご安心を、貴方の考えるようなことにはなりませんから……。」
「江雪兄さっ……いえ、失礼、しました……」
「私に妹はいない筈ですが……？」
遥香の後ろから入って来た江雪にAは破顔しましたが、すぐにここが自分の本丸ではなかった事を思い出し頭を下げました。
怪訝そうな江雪の顔に彼方の江雪とは違う刀剣男士だと分かっている筈なのにAは無性に涙が込み上げて来ました。まだ一日も経っていないというのに、Aの望郷の想いは強まるばかりです。
「……何故、泣くのですか？」
「ご、めんなさい……」
江雪が屈んで目線を合わせると更にAははらはらと涙を流してしまいます。
……小夜……
江雪は遥か昔、小夜にしてやったようにそっと頭に手を置きました。
「何故、泣いているのか……この兄に教えてはくれませんか……？」
江雪の優しい声にAは堰を切ったように涙を流し、己の不安を吐露し始めました。
「刀、取り上げられるし……三日月、怖いし……兄さんたちや、小夜ちゃんが……みんな、いな…くてっ……あたし…本丸に帰りたいっ！ぅ、ぅあああっ！！」
穏やかな表情の江雪は彼方と変わらず、堪らずAは泣きじゃくります。
「……ごめんなさいっ！貴方はあたしを知らないって分かってるのに…っ…ごめんなさいっ！」
拭えども拭えども収まらぬ涙に狩衣を濡らすAを江雪は黙って抱き上げました。
「江雪、さん？」
江雪のひやりとした指先がAの暖かな涙を拭いました。
「……彼方の私は、貴方の兄だったのでしょう？……よければ、彼方で貴方と私たち。兄妹がどう過ごしていたか話して貰えませんか？」
こっくりと頷いたAの頭を撫で、江雪は茶菓子の用意されている席にそっとAを降ろしその隣に腰掛けました。
畑のこと、
小夜のこと、
宗三のこと、
江雪のこと。
江雪にとって、久しく過ごす穏やかな時間でした。
第十幕。彼女と扉の向こう側。→←第八幕。彼女と夫婦刀のように。
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菱神 昂(プロフ) - 特にリクエストはいただかなかったので、祭り会場は小ネタ置き場に改造いたします。 (2015年5月1日 20時) (
レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
菱神 昂(プロフ) - 御礼祭リクエスト受付は本日21時からです。リクエストは必ずお知らせを熟読された上でお願いします。ある意味キーワードの代わりとなりますのでよろしくお願いいたします。著者。 (2015年4月30日 14時) (レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
菱神 昂(プロフ) - (3k猫*´∀`*){よきかな〜♪さん» コメントありがとうございます！この章から漸く本線が始まるなという感じです。今から更に盛り上がる筈ですのでこれからも椿切と本作をよろしくお願い致します！ (2015年4月9日 23時) (レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
(3k猫*´∀`*){よきかな〜♪ - お〜！だんだん話が盛り上がってきましたね！更新頑張ってください！ (2015年4月9日 19時) (レス) id: fdc932d927 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：菱神 昂 | 作成日時：2015年3月6日 23時
