第六幕。彼女と狂気の片鱗。 ページ39
「……でも、漸くこうして逢えた。」
三日月は片口に埋めていた顔を上げ、Aの頬を両手で優しく包み込み蕩けるような笑みを浮かべて額に口付けました。
「み、三日月っ！？あ、あ、あんたっ今あたしに口付けて！？」
好きだと言われることはあっても直接何かをされたという経験は全くと言っていいほどなくAは羞恥心から顔を真っ赤に染め、三日月から少しでも離れようと腕の中でジタバタと暴れました。
「A。」
「……っ！！」
三日月の胸板を押した瞬間、Aの両手首は三日月に力一杯掴まれベッドに縫いとめられるかのように拘束されました。みしりと骨が嫌な音を立てて軋みます。
「俺を拒むな。」
Aの眼を覗き込むように三日月が顔を近づけます。
Aを見下ろすその眼に温かさなんて微塵もある筈はなく、氷のように冷たく仄暗い瞳がそこにあるだけでした。
ヒヤリと冷たい汗が背に流れます。
「俺にAを傷付けるようなことをさせないでくれ。」
脅しではない、これは本気なのだとAは悟りました。
この状況下、相手が敵で、同じ体格であれば形勢逆転なんて簡単なことでした。が、今は相手は主の上に立つ者の配下で体格が大きい、無理をすればお互いが無事ではすまないのは自明の理でした。
しかも相手は自分が最も信頼していたといっても過言ではないあの三日月宗近、本気で戦うなんて……無理でした。
Aが無言で頷いたのを確認すると三日月は嬉しそうに破顔しAの薄い口唇に己を重ねました。
「A、俺のA。」
再び啄むように口付ける三日月のなんと無邪気なことか。
「ここにいる間はAは俺のものだ。朝は共に目覚め、夜は共に床に入り眠る。同じものを見て同じものを聴き、同じものを食べる。ここにいる間はずっと一緒だ。」
「……分かった。ここにいる間は三日月の好きにしてもいいわ。」
ここにいる間は、自分が去る者だと三日月は理解している。
Aは少しだけ安心しました。
長くともひと月程の辛抱、自分が我慢すれば誰にも迷惑はかからず三日月の気も済むだろう……そうAは考えました。
どうせ刀に貞操もなにも関係ないだろうし、それより早く本丸に帰りたい。
ふとAは本丸を出るときの不安そうな三日月の顔を思い出しました。ズキリと胸が痛みます。
ですが今は己の気持ちに蓋をし、更に深くなる口付けに身を委ねるように瞼を閉じました。
第七幕。彼女の不運。→←第五幕。彼女ともう一人の三日月宗近。
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菱神 昂(プロフ) - 特にリクエストはいただかなかったので、祭り会場は小ネタ置き場に改造いたします。 (2015年5月1日 20時) (
レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
菱神 昂(プロフ) - 御礼祭リクエスト受付は本日21時からです。リクエストは必ずお知らせを熟読された上でお願いします。ある意味キーワードの代わりとなりますのでよろしくお願いいたします。著者。 (2015年4月30日 14時) (レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
菱神 昂(プロフ) - (3k猫*´∀`*){よきかな〜♪さん» コメントありがとうございます！この章から漸く本線が始まるなという感じです。今から更に盛り上がる筈ですのでこれからも椿切と本作をよろしくお願い致します！ (2015年4月9日 23時) (レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
(3k猫*´∀`*){よきかな〜♪ - お〜！だんだん話が盛り上がってきましたね！更新頑張ってください！ (2015年4月9日 19時) (レス) id: fdc932d927 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：菱神 昂 | 作成日時：2015年3月6日 23時
