次章の前。彼女と最近の夢見事情。後 ページ33
震えるAの背をあやす様に一定の間隔で叩き、いつもは穏やかな三日月も事の深刻さに眉根を寄せました。
そもそも椿切Aとは最初の主人がAに命名したもので、刀匠の自身はAとしか銘を切らなかったものの自分の娘の病気平癒を願って打ったことで結果娘の魂の一部を縛ることになってしまったと三日月は聞いていました。
そのせいで今の自分はこの姿なのだと。
平安時代、女性は真名を名乗らず通り名で過ごす慣わしがありました。それは呪術的な意味合いが強く、名を握られることは命を握られることと同じだと考えられたからです。ましてAは椿切Aの付喪神であり、刀に縛られた刀匠の娘、Aの霊魂でもあるのです。
夢の中の声はこの刀匠の娘の真名を知っていました。
ただの夢であれば、どれ程良いことでしょう。
「連れて行かせはしないさ。」
「三日月？」
「A、俺はお前を連れて行かせはせん。」
力強く、三日月はAを抱きしめました。
「………もし、仮にも、名を縛られるような事があれば、三日月、あたしのことをこう呼んで。」
耳元でそっとAが囁きました。
「A、その名は……？」
「大戦の直前の主様があたしの拵を直した時に元々の造りに気付いて名付け直したの、あたしが頑丈なのもそのお陰。」
今はこの名前を知ってるのはきっと、三日月だけよ？その家の長子にしか伝わらなかったもの。
藤原様も知らなかったから、きっと、大丈夫。
まるで自分に言い聞かせるように話すAはどのような顔をしているのでしょう、三日月の肩口に顔を埋めました。
「A、俺がついているから少し眠るといい。」
「すぐ、起こしてくれる？」
「ああ、魘されていたらすぐに起こすさ。」
だから、おやすみ。
「……ありがとう三日月。」
久々の安心感から徐々に瞼が重くなり始めました。
最後の大戦から二百六十年、あの家に守り刀として仕え、最後の主となったあの子と別れてから三十年近い月日が空白として流れた。
久しぶりに審神者に呼び出されて、
自由を知って、
土に触れて、
空の高さを感じ。
誰かと話しをして、
食べて、笑って、
温かい気持ちになって、
ここに来て良かったと心から思う。
夢を見るならあの子と過ごした夢か……、
この本丸のみんなと、過ごす夢がいい。
穏やかな寝息を立て始めたAの頬に三日月はそっと唇を落としました。
しかし、この穏やかな時間にも闇は着実に手を伸ばしているのでした。
第一幕。彼女の出張について。→←次章の前。彼女と最近の夢見事情。前
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菱神 昂(プロフ) - 特にリクエストはいただかなかったので、祭り会場は小ネタ置き場に改造いたします。 (2015年5月1日 20時) (
レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
菱神 昂(プロフ) - 御礼祭リクエスト受付は本日21時からです。リクエストは必ずお知らせを熟読された上でお願いします。ある意味キーワードの代わりとなりますのでよろしくお願いいたします。著者。 (2015年4月30日 14時) (レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
菱神 昂(プロフ) - (3k猫*´∀`*){よきかな〜♪さん» コメントありがとうございます！この章から漸く本線が始まるなという感じです。今から更に盛り上がる筈ですのでこれからも椿切と本作をよろしくお願い致します！ (2015年4月9日 23時) (レス) id: 4fb92bb402 (このIDを非表示/違反報告)
(3k猫*´∀`*){よきかな〜♪ - お〜！だんだん話が盛り上がってきましたね！更新頑張ってください！ (2015年4月9日 19時) (レス) id: fdc932d927 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：菱神 昂 | 作成日時：2015年3月6日 23時
