七話 ページ8
「おい、しっかりしろ」
上から低い声が降ってきた。
呼ばれた声で意識が冷める。目を開けると、冴が至近距離でAの顔を覗き込んでいた。
バチッと視線がぶつかって、目が離せなくなる。
「えらいこと悪い思い出でもあんのか」
「‥はっ、昔の話だよ」
顔色を悪くさせて不気味に笑ったAは息苦しさか思わず冴の服の袖を掴んだ。
「お前が話を拒もうと結果は変わんねえぞ。というか、俺に会ってバレてる時点でお前、詰んでんだよ」
その言葉が、グサリとAの心を貫いた。
そうだ。良くも悪くも糸師冴の出会いはAにとって晴天の霹靂だった。
「警察にいってもお前の人生は風俗で働くこと以外にしかなくなるし、このままでもいずれ栄養失調で死ぬ」
わかりきってたことを言われて、Aはささっと忘れたいほどの記憶だからこそ、そのおぞましさに囚われる。
Aはぽつりと呟いた。
「じゃあ、どう生きていけば良いの？」
Aが自分でもびっくりしたほど、縋った小さな声が出た。
「俺と来い」
Aが息を飲み込んだ。
喉を乾かす焦りが急かす。
掴まれた手首が、拒否は許さないというように力強く痛いほど握り締められた。
正直この誘いを蹴るのは惜しいと思った。
でも、身も知らなかったはずのサッカー選手に一般人のAが一緒にいるなんて前代未聞以外何者でもない。
今更、自分の無力さにほとほと泣けてくる。
「お前が来るんだとしたら、飯も金も、全部やる。ここのバイト以上に良い所も薦めてやる」
Aの選択を急かすように捲し上げた。
ここで蹴ったら？
助けてくれる人はいる？
ぐずぐずしてるいる間に、時間はあっという間に過ぎていく。
こんな千載一遇のチャンスなんて滅多にない。誰もAに助けてくれることなんて約束してはくれない。
ただこの時だけは、目の前の糸師冴とめちゃくちゃになってしまってもいいと思えた。
何とかなるのかはわからない。だが、少なくても手を伸ばせば届くのだ。
今、そんな位置にいるのだ。自分が動かそうと思えば。
たとえ、それが恋だとしても。
「‥‥連れていって」
縋るような声でAは糸師冴の手を握り返した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2126人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なぎねぎ - すごくおもしろかったです。女の子の性格がとても好きでした。 (1月12日 20時) (
レス) @page32 id: eca7262407 (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無％(プロフ) - 完結おめでとうございます！題名からビックリし惹かれまして読み進めていったらこんなにも面白い作品とは思いませんでした！！ビックリ展開多かったですけどとても面白かったです！お疲れ様でした (2023年4月1日 6時) (レス) @page32 id: 00e0ebd256 (このIDを非表示/違反報告)
Joke(プロフ) - 完結おめでとうごさいます！このお話が出てきたときからのファンで、友達にも紹介するほど好きだったので完結してとても嬉しかったです！改めて完結おめでとうごさいます！ (2023年3月28日 1時) (レス) id: 61b77d541b (このIDを非表示/違反報告)
虹(プロフ) - 完結おめでとうございます🎉ずっと陰ながら応援させていただいてました！！！この作品滅茶苦茶好きです！改めておめでとうございます！ (2023年3月18日 11時) (レス) @page32 id: 12afbbff79 (このIDを非表示/違反報告)
ちわこ(プロフ) - ひやああああ面白いっ！！更新楽しみにしてます！！！ (2023年3月13日 23時) (レス) @page29 id: 743e31f7de (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：じゃじゃー麺 | 作成日時：2022年12月19日 16時
