三話 ページ4
頼みの綱であるヒールが生きているが確認するが、もう長く使っていたこともあり、今のがトドメだった。
最悪だ。もう、本当に最悪だ。
日本の誇りである彼と滅多には会えないのに、スッピン見せて、焦りすぎて言葉も出来ないのに、目の前で転んで。お気に入りのヒールも折れて。
とうとう私の意志では彼の顔が見れなくなった。
私は息苦しくなった。鼻の奥がツンとして、その場にいるのが辛くなる。早く帰ってしまおう。そう思って、痛みで震える身体を起こして、壊れたヒールを素早くとって立ち上がる。
もう顔は見れない。見たくない。
ここに来て初めて、目の前でスヤスヤと気絶している親友に殺意を込めた。
「失礼します‥」
ああ、駄目だ。これ以上喋ったら涙が出てしまう。
最後の抵抗で、彼の目の前で涙は流さないと決意した。瞬きをすれば確実に涙は濁流のように流れ出る。
そんなことAの意地が許さなかった。
「‥ほら、行くよ。起きて」
気絶している親友の腰と肩に手を回して、空いてる鞄にヒールを突っ込む。裸足で地面を歩くと痛いが、今はそんなどころの話じゃなかった。
私が足を自宅に向けた時だった。
「おい」
うしろから、声が飛んできた。誰にも邪魔されない、よく通る声だった。私の痴態を見た彼だ。
ふざけるな、こっちは恥ずかしくて死にそうだってのに。
逆ギレにも言える醜い言葉を胸の中で吐きながら振り返ろうと思ったが、今は自分のことを信じた。
「すみません、急いでいるので。これで」
誰に聞かせる風でもない言い方で、私は不器用に振り返って笑った。
彼は動じることもなくこちらをただただじっと見やる。
私の言葉が消えた後は無音だ。耳に届くのが風の音だけなのが居心地悪くて、私は最後、彼に向けて声をかけた。
「あなたの試合、良かったです」
何でそんなことを言ってしまったのかわからない。しかし、気づけば、馬鹿正直にそんな言葉を口にしていた。
そして私は彼の姿を後にした。後ろからまたあの声が聞こえてくるが、気にしない。
許してくれ神様。イケメンの言葉を無視してしまったこと。
※※
「なんでいるんですか」
目の前の赤髪に問う。もちろん過去形。
いつから過去形だったのかなんて、Aには鮮明に思い出せた。
それもそうだ。何故、バイト先でまたこんなイケメンと再会するのかと、それも将来有望なサッカー選手の彼が。
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なぎねぎ - すごくおもしろかったです。女の子の性格がとても好きでした。 (1月12日 20時) (レス) @page32 id: eca7262407 (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無%(プロフ) - 完結おめでとうございます!題名からビックリし惹かれまして読み進めていったらこんなにも面白い作品とは思いませんでした!!ビックリ展開多かったですけどとても面白かったです!お疲れ様でした (2023年4月1日 6時) (レス) @page32 id: 00e0ebd256 (このIDを非表示/違反報告)
Joke(プロフ) - 完結おめでとうごさいます!このお話が出てきたときからのファンで、友達にも紹介するほど好きだったので完結してとても嬉しかったです!改めて完結おめでとうごさいます! (2023年3月28日 1時) (レス) id: 61b77d541b (このIDを非表示/違反報告)
虹(プロフ) - 完結おめでとうございます🎉ずっと陰ながら応援させていただいてました!!!この作品滅茶苦茶好きです!改めておめでとうございます! (2023年3月18日 11時) (レス) @page32 id: 12afbbff79 (このIDを非表示/違反報告)
ちわこ(プロフ) - ひやああああ面白いっ!!更新楽しみにしてます!!! (2023年3月13日 23時) (レス) @page29 id: 743e31f7de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:じゃじゃー麺 | 作成日時:2022年12月19日 16時